第28章 人魚
「ちょっと待て、プレートの裏に亀が貼り付いていたんなら、なんで今いないんだよ!
水を抜いて探しまくったのに!」
「誰かがこっそり剥がして、今も懐に忍ばせてるからよ」
「んな馬鹿な!ここにいる全員のボディチェックは済んでるんだぞ!」
「1人だけいるじゃない?ボディチェックを免れた人物が」
おいおい、ボディチェックを免れた人物ってまさか…
「隠しているのは、ボディチェックの前に頬をつねられてキッドの変装じゃないのを証明した次郎吉おじ様、あなたよ!」
園子さんの言葉に、みんなの視線が相談役へと集まる。
「本当に宝石亀がいなくなったのかを確かめるために水槽の金網を開けさせ、脚立に乗って水槽の中を覗いたおじ様ならプレートに貼り付いた宝石亀を剥がして上着の内ポケットに隠すことは出来たんじゃない?
おじ様の体に遮られて、後ろのみんなには見えないしね」
「てことで、調べさせてもらうぞ」
そう言って中森警部が相談役の上着の中へ手を入れると、「いたたたたっ!!」と突然声を上げて何かを放り投げた。
投げたものは、正にみんなが血眼になって探していた宝石亀。
園子さんの言う通り相談役がずっと懐に忍ばせていたようだが、亀は元気そうだ。
「こ、これには訳があるんじゃよ!」
「訳だとォ!?どんな訳だって言うんだよ!!」
「その訳は、おじ様の足元に刺さっていたキッドのカード。
多分カードにはこう書いてあったのよ。
磁石にくっ付く合成ダイヤまみれの亀が本物のブラッシュマーメイドを背負っているとは思えないし、亀の名前はギリシャ神話の怪人『ポセイドン』。
でも、飼い主がイタリアの女優ならローマ神話の怪人『ネプチューン』と普通は名付けるはず。
そんな胡散臭い宝石亀を高額で買わされたことを知られたくなければ、こっそり回収するのが懸命ですよ、ってね」
「あぁ、これがそのカードで、だいたい園子が言った通りじゃ」
あー、だから何度も撤収しろって言ってたのか。
懐に入れられてる亀が可哀想だもんな。
「で、キッドはどこなんだ!?」
「さぁ?仕掛けは全部リモコンで遠隔操作出来るものばかりだし操作は入り口に押し寄せた客に紛れてやったでしょうから、今夜はドヤ顔でスキップしながら帰路に着いてるんじゃないかなぁ?」