第28章 人魚
「その証拠に、ほらガキンチョ、見せてあげて」
「うんわかった!
ねぇさん、ライター持ってる?」
「え?ええ、100円ライターなら」
「そのライターをこの真上から水槽の中に落としてみてよ」
「わかったわ」
言われた通りに手を伸ばして水槽の上からライターを落とした。
「あれ、落ちてこない」
不思議に思って、脚立に登って水槽を覗くと水槽の正面に付けられた金のプレートの裏にくっ付いていた。
「ふーん、なるほど。
このプレートが強力な磁石になっているのね。
私が持ってるような安いライターは点火部分が鉄で囲われているから」
「し、しかし、そのプレートが磁石だとしても宝石亀が消えた謎は解けないんじゃないのか?」
中森警部の言うことも一理ある。
まさか亀自体が磁石にくっ付く訳が無いし、あの亀に付いている宝石の中で鉄と言えばネックレスの留め金くらいだ。
「あら、亀の腹にも沢山付いていたと思うけど。
あの腹の宝石が全て合成ダイヤなら、くっ付くこともあるんじゃない?」
「あー確かにそうね。
合成ダイヤを作る際に使う溶剤の中に含まれる鉄が、インクルージョンとして結晶中に取り込まれる場合があるから」
「さんの言う通り。
まぁ、亀は水の中だし磁力だけで固定するのは無理だけど、そのプレートの裏に引き寄せる程度はできたと思うわよ?
それだけで十分だったのよ。そうでしょ?さん」
「ええ、今プレートに付いた私のライターを剥がしてみたけれど、磁石だけじゃなくべっとりと粘着物が付いていたわ。
ここに亀がはまったら確実に動けないわね」
「し、しかしどうやってそこに亀を…?」
「餌よ。亀の餌に少々砂鉄を混ぜてプレートの裏側に付くように撒いておけば、嗅覚が鋭敏な亀はそれを食べるために水槽の底からガラスにそって浮上しまんまとキッドの仕掛けた罠にハマったってわけ。
恐らく、餌をまく仕掛けをあの証明に付けていてそれをカーペットで水槽を覆った時に作動させたんでしょうね。
亀の体長は10センチ程度。あのプレートの大きさなら亀はすっぽり隠れて、前からは見えないでしょうから」
園子さん、いつもに増して冴えてるな。
まさか謎解きが得意だなんて思わなかったわ。