第3章 ちゃんと見て
翌朝、私はみんなが起きるよりも早くに警察学校を出た。
長らく電車に揺られている間、思い出すのは小さい頃の父さんと母さんとの思い出ばかりであった。
2人と手を繋いで公園へ行った時。
母さんと一緒にご飯を作った時。
父さんにおんぶをしてもらった時。
初めてのテストで百点を取って、沢山褒めて貰った時。
景色が通り過ぎるのを横目に、私は1人で静かに涙を流した
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何年ぶりかの私の家。
収まらない鼓動を指先にまで感じながら、私は徐に鍵のかかっていないドアを開けた
「ただいま」
あの頃と変わらない匂い
玄関には、私の中学校入学式の写真が飾られていた。
「か」
「父さん」
「帰って、来てくれたんだな」
「当たり前でしょ。娘なんだから」
久しぶりに会った父さんは、昨日の電話からは想像もつかないほど弱々しくて、悲しみに暮れたことが容易に想像できるほど窶れた顔をしていた。
父さんに促されるまま家の中へ入り、リビングのソファへと腰掛ける
「昨日は悪かった。お前の言う通り、ちゃんと話を聞かなかったな」
かつての父さんの威厳は面影もなく、ただ静かにそう告げられた
「私こそ、父さん1人で大変だって時に感情的になってごめん」
改めて、私の昨日の自分勝手な態度を悔いる。
これほどまでに弱っている父さんを前にして、帰らない。なんて、酷いことを言ったものだ。
「母さんな、お前が一人暮らしを始めた頃からずっと言っていたんだ。
小さい頃からお前に我慢をさせすぎたんじゃないか、もっと沢山構ってあげられたんじゃないかって。
お前は昔からしっかりしていたから、父さんも母さんもそれに甘えっぱなしだったんだよな。お前のことをちゃんと考えられていなかった。
親失格だ。
ずっと寂しい思いをさせて、すまなかった」