第26章 スペシャルコーチ
「振動を与えるとペットボトルの表面にそって上の方から凍り始めるので、恐らく琴音さんは過冷却になったスポーツドリンクの中に鍵を入れて振動させ、上の方が凍ってからひっくり返して鍵をドリンクの中央に寄せてから全体を凍らせて、園子さんに飲ませたんでしょう。スポーツドリンクは薄い色が付いていますし、ジェル状に凍るので中の鍵は見えなかったというわけです」
「溶かせば出てくるんじゃないかしら?琴音さんが石栗さんを殺害したという痕跡が」
「そ、そんなの出てきてから言いなさいよ!!」
「もしも出てこなかったらあんたらな…」
安室さんと私の言葉に強く反抗する真知さんと高梨さん。
しかし、当の琴音さんはまるで諦めたかのように落ち着いていた。
「ダメよ、真知、高梨くん。
出てきちゃうから、私の指紋がバッチリ付いてる合い鍵がね。しかも私、焦ってその鍵を石栗くんの血の上に落としちゃったし」
静かにそう話す琴音さん。
動機はやはり、今年の冬に亡くなった大学の友人、瓜生さんの敵討ちであった。
彼の遺体が運ばれていった日の夜、琴音さんはロッジの裏で雪を折り返している石栗さんを見かけたんだそう。
最初は、瓜生さんが亡くなったことが信じられなくているはずのない彼を見つけようとしているのだと思っていたが、石栗さんが探していたのは自分が首に巻いていたストール。
それを見つけた時の彼の笑顔が全てを物語っていたんだという。
そう、瓜生さんは自分から雪の中に飛び込んだのではなく、石栗さんに突き落とされたのだと。
瓜生さんは落とされた時に咄嗟に石栗さんのストールを掴んだのだろう。でなければ、石栗さんが夜中にこっそり捜すわけがない。
石栗さんは恐らく、雪の中でもがく瓜生さんがヘトヘトになった頃に迎えに行くつもりだったのだろうが、2メートルの新雪が底なし沼になり瓜生さんの体力を急激に奪った。
そして、琴音さんらが見つけた時にはもう完全に雪に埋もれて冷たくなっていたという。