第25章 ミステリートレイン
壁ドンの体制から離れる沖矢さんに私は問いかけた。
「……さっき、私を眠らせたのは沖矢さんだって言ってましたよね」
「私は今、少し黙ってくださいと…「いいから答えてください」
「……ええ言いましたが、それが何か?」
「私が気を失う直前、目の前にいたのはあなたではなく、確かに赤井さんでした」
「……気の所為では」
「………誰だか、聞かないんですね」
沖矢さんの動きが止まった。
「普通、知らない名前が出てくれば誰だか聞きますよね?さっきの安室さんみたいに。
それとも、まさか知り合いだなんて言わないでくださいよ?
だって、彼は亡くなっているんですから」
沖矢さんは止まったままだ。
「……あなたが、赤井秀一さんですよね?」
私の言葉を聞いて、ゆっくりとこちらに振り返る。
「何故、そう思ったんですか?」
「…あなたの瞳を、知っていたから」
忘れない、
夕陽に照らされたあの悲しい翠眼は。
「……はぁ…
私がその赤井という名を知っていたのは、前に1度コナンくんから聞いたからです。ほら、あの米花デパートでの事件の時に。
でもまさか、その人物が既に亡くなっているとは思いませんでした。何せ、名前を1度聞いただけですからね」
「そうやって適当な理由を並べれば、私が納得するとでも?」
「先程から何を言っているのか全く理解出来ませんが、その赤井という人物は私にどういった関係があるのでしょうか?」
「なるほど、意地でも誤魔化すつもりですか」
「誤魔化すも何も、私はその人物に会った事すらありません。
だって亡くなっているんでしょう?あなたも言っていたじゃありませんか」
何を言っても、このまま状況は変わらなそうだな。
「……分かりました、今はそういうことにしておきます」
そうして私は立ち上がった。
あ、そういえば、前に借りたコートまだ返せてないな。
「あの、この前貸していただいたコート…」
「ああ、あれはまた今度で構いませんよ。
あなたに会う口実にもなりますから」
「…」
私が何を聞こうがどんなに問い詰めようが、沖矢さんの調子を崩すことは難しいらしい。
くそっ、今すぐその正体を暴いてやりたいのに。
ガチャ
突然、玄関のドアが開く音がした。
「おっと、来たようだ」