第25章 ミステリートレイン
まだ死にたくない、というのは本心だ。
でももし、あいつらの命が救えたとすれば、私は喜んで自分の命を差し出したかもしれない。
あいつらがいなくなってしまったこの世界で息をすることの方がよっぽど辛いということを身をもって知ってしまったんだ。
あの、何にも変え難い大切な日々を奪われた時の絶望は、もう味わいたくない。
「何度あっても慣れませんね、大切な人を失うのは」
そう言って自嘲する。
すると、赤井さんが夕陽で赤くなった私の左頬に手を添えた。
困ったような、悲しげな顔を向ける赤井さん。
……そんな顔をさせたかったんじゃないんだけどな。
「似ているんだ…君は、本当に…」
そう言いながら、添えられた赤井さんの手に力が篭もる。
「その横顔も、風になびく髪も、悲しげに笑う姿も、瞳も。
俺の知っている、あのバカな女によく似ている」
赤井さんの瞳から涙は流れていないけど、確かに泣いていた。
でも私には、その流れていない涙を拭うことは出来ない。
「……悪い」
「……いえ」
そう言って赤井さんの手は離れていき、私たちは元の距離感に戻る。
赤かった夕陽は沈みきっていた。
「……さっ、早く戻って報告書上げないと!
私、明日の帰国の準備しなくしなくちゃいけないんで」
そう言ってパンッと手を鳴す。
「まさか、まだ終わっていないのか?」
「はい!
これからパッキングする予定です」
「はあ、君ってやつは……」
「あ!もしかして手伝ってくれちゃったりします?」
「断る」
「ええ〜」
さっきまで眺めていた空に背を向けて、私たちは赤井さんの車である黒いシボレーの元へと歩き出した_____