第25章 ミステリートレイン
「何故、そんな目をする」
「……え?」
「何故、そんな泣きそうな顔をしている」
夕陽を見ていたはずの赤井さんの顔はこちらを向いていて、その綺麗な翠眼で、心の奥底に問いかけられているようだった。
「…少し、昔を思い出していて」
「……そうか」
訪れた沈黙。
でも、彼との言葉のない時間は悪い気はしない。
「…赤井さん、変なこと聞いてもいいですか」
「変なことなら断りたいところだが」
「人って、死んだらどこに行くと思います?」
赤井さんの言葉なんてお構い無しに質問する。
別に、答えが欲しかったわけじゃない。
ただ、2人だけで話がしたかった。
「残念だが、俺には分からんな。死んだ人間のことはあまり考えない」
「…そうですか」
やっぱり冷たいな。
ま、赤井さんらしいっちゃらしいけど。
少しだけまともな答えを期待していた自分が馬鹿らしい。
こんな時にセンチメンタルになるなんて。
「でも、俺にも助けられなかった人間がいる。
…目の前で、自らの心臓を撃ち抜かせてしまった」
「……え?」
赤井さんはそう続けた。
思いがけない言葉に少し困惑するが、彼なりに私に寄り添おうとしてくれたのかもしれない。
「…自殺、ということですか?」
「ああ、仲間の情報を守るためにな」
果たしてどこまで聞いて良いものなのか。
口ぶりからして、あまり踏み入ってはいけない話なのだろう。
それでも私に話したということは、赤井さんなりにその事について考えるものがあったのだろうか。
「俺からも君に質問をしたい。
君は、人のために自分を犠牲にできるか?」
赤井さんからのその問いに、どんな意味があるのか私には分からない。
「ノーですね。まだ死にたくないので」
「そうか。ふふ、君らしいな」
私らしいがよく分からないが、赤井さんはそう言って笑った。
赤井さんの笑顔なんてレアだな。初めて見たかも。
「……でも、それがもし私の大切な人だったら、死んでもいいと、思ってしまうかもしれません」
そうして私は、赤井さんに向けていた顔を沈みかけている夕陽に向き直ってそう言った。