第3章 ちゃんと見て
「……え…」
「昨日、急に心臓を抑えて倒れたんだ。急いで病院へ運ばれたけど、そのまま…」
「え…母さんが亡くなった……?」
「急性心筋梗塞だそうだ。
だから、急いでこっちに帰って来なさい。そちらの先生方にもお話はしてある」
「で、でも、来週には試験が…」
「そんなこと言ってる場合か!母さんが死んだんだぞ!!
親の死に目に会えないで、1人娘が何をやっているんだ!警察官なんて下らないことをしているからだろう!!」
「……帰れない。来週の試験をクリアしないと、警察官になれないから」
「だから!そんな下らない反抗はやめて、帰って来なさい!!全く、親不孝な娘にも程がある」
「いい加減にしてよ!!父さんはいっつも私の話を聞いてくれない!
私は絶対警察官になる。決めたの!
だからそっちには帰らない」
そのまま電話を切った。
正直、何が起きているのか分からなかった。
母さんが亡くなったと聞いても、少しも実感なんて湧かなくて。
ただ、頭ごなしに否定して全て決めつける父の変わらぬ態度に、怒りが抑えきれなかった。
教官室へ戻り、携帯電話を再び預けて、私はみんながいるであろう食堂へ向かった。
「お、ちゃんおかえり〜」
「何の用だったの?」
「怒鳴られたか?」
「松田じゃあるまいし。
なんか、親から電話があって、それで」
「ご両親は大丈夫だったのか?」
「うん。別に何でもなかった
それより、みんないいもん食べてんじゃん!私の分は?」
「もちろん、ここにご用意してありますよ〜お嬢さん」
「伊達班長様の奢りだからな」
「おう!たんと食え!」
「わーい!!ありがと伊達!!」
今は、何も考えたくない。
ただ、目の前にいるみんなと、なんでもない時間を過ごしたい