第20章 夜想曲(ノクターン)
何も言わない沖矢さん。
顔を上げて見ると、彼はとても悲しそうな顔をしていた。
その見えない瞳に、とてつもない罪悪感が押し寄せてきた。
この人は、私を守ろうとした。
例えそれが私にとって煩わしいことだとしても、彼は確実に善意でやってくれている。
どんな考えや思いがあるのかは分からない。
しかし、それをこんなふうに無下に振り払って、おまけに大声で怒鳴って。
なんてことをしてしまったんだ……。
「あ、あの、ごめんな……
「今日は冷えますから、これを羽織っていて下さい」
沖矢さんは私の謝罪を遮って、自分が着ていたコートを私に掛けた。
「そのスーツだけじゃ、風邪を引いてしまいますから。
…それと、出過ぎた真似をしました。すみません」
そう言って1人で愛車の元へ歩いていった沖矢さん。
謝らなきゃいけないのは、私の方なのに……。
私は、悲しげな背中を見つめることしか出来なかった。
その時あいつが遠目にこちらを見ていた事など、私は知る由もない。
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沖矢は愛車のドアを開けて運転席に座る。
すると、後部座席に座っていた少女が話しかけた。
「ねぇ、あの人と何話してたの?」
「…君に言う必要はない」
「……あの人に、変なことしないでよね」
「なぜ君が彼女を気にする?」
「別に、理由なんて無い」
「そうか。
私はてっきり、彼女が君の大切な姉に似ていたからかと」
「………何を、言っているの…?」
「何、心配する必要は無い。
俺には、彼女を守る義務があるからな」
ーー…それと、君のことも。
沖矢は心の中でそう呟いた。
もちろん、少女にこの言葉は聞こえない。
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