第20章 夜想曲(ノクターン)
「体当たりの件ですが、緊急だったとはいえやりすぎです。
どうやら毛利さんや蘭さんも同乗していた様ですが、彼らにも危険が及んだかもしれない。しかもここは一般道路です。
時と場所を弁えてください」
先程からの笑顔を崩さぬまま、私は安室とかいう奴にそう告げた。
「失礼しました。
しかし、同乗していた彼らの安全は確保していたつもりです。
それに、あの時あのスピードで路地から出てきたあなたも、体当たりで車を止めようとしていたようにお見受けしますが、自分は棚に上げて人を責めるのは如何かと」
ああ言えばこう言うな全く。
この喋り方も顔も何もかもムカつく。
何ヘラヘラしてやがんだ。
「……分かりました。後日“お話を”聞かせて頂きますので」
「…ええ、構いません」
両者最後まで微笑んだ顔のまま話は終わり、彼は毛利さん達の元へ歩いていった。
数年ぶりの再会がこれかよ。感動のかの字もありゃしない。
「ねぇ、さんって安室さんと知り合いなの?」
突然下からコナンくんが問いかけてきた。
あいつのあの様子からして、恐らく警察関係者だということは伏せているんだろう。
バレてはまずいな。
「ううん、今初めてお会いしたわよ。どうして?」
「何か、さんが見たことない目をしてたから」
相変わらず鋭いな。何でも見透かされている気がする。
怖い怖い。
「もしかしたら、私の同期に似ていたからかもしれない」
「同期?」
「うん、警察学校時代の」
嘘をつくには、真実を少し混ぜると効果的だという。
「…そうなんだ」
「でも、話し方も雰囲気も全然違ったから、別人なんだけどね!」
「そっか、じゃあ僕の勘違いだね!」
これで騙せただろうか。
この子の洞察力は計り知れない。
油断しないようにしないと。