第16章 餌付け
嘘だ、こんな所で知り合いに会うはずがない。
だって、こうなりたくないがためにわざわざ本庁から離れた米花町のスーパーまで来ているのだから。
「い、いやー、これは……」
最悪だと思いながらゆっくりと振り向いた。
しかしそこに知り合いの影はなく、代わりに立っていたのはメガネを掛けた全然知らないイケメン。
「……あの、どなたですか?」
知らない人に突然話しかけられ、挙句「太りますよ」なんて言われた私の頭は困惑で埋め尽くされていた。
まじで誰だよこいつ。
「すみません、さっきからカップ麺ばかりカゴに入れているようでしたので、つい」
つい、ってなんだつい、って。
見ず知らずの女の食生活なんてそんなに気になるもんか?
余計なお世話じゃぼけ。
「カゴの中を拝見するに、カップ麺の他にはバー食品とお菓子、栄養ドリンクと申し訳程度の野菜ジュースが入っているようですが、あなた、料理はされないんですか?」
「……する時間が無いもんで」
世の中の女が全員料理をすると思ったら大間違いだ。
というか、人のカゴの中を勝手に見るなよ!!失礼な奴だな!
「あなたの格好と、今の料理をする時間が無いという発言、そしてポッケから少し見えている手帳から察するに、恐らくあなたは警察官。
体が資本の人間がこんな食生活ではだめでしょう?」
さっきから何なんだこいつは。
観察眼えぐいな…じゃなくて!
なんで初対面の男に説教されなきゃならないんだ!?
平然としている男のせいで、何だか私の方がおかしい気がしてきた。
これが今の世間では普通なのか?
…いや普通な訳あるかい!!
「お気遣いどーも。でも、余計なお世話ですので。
失礼します」
そう言って私は、男を押し退けてレジへと向かった。
……向かおうとしたんだ、
「待ってください」
男に腕を掴まれたことにより、それは阻まれた。
私は腕を大きく振り上げて勢いよく回し、男の腕を捻って掴んだ男をひっくり返そうとしのだが、
……出来なかった。
腕を離すどころか、ビクともしない。
こいつ、何者だ…?
「ちょうどこれから、うちに帰ってビーフシチューを作ろうかと思っていたのですが、良かったらご一緒にいかがですか?」
「……ナンパ…?」
「そう思って頂いて構いません」