第15章 奇術師
「問題は2人の人間が上下する様子を下の群衆に気づかせないこと。
仲間はビルにかかった垂れ幕の裏を通ればよし。でもお前にはカードを群衆に向けて放つって役目もあるから、幕の裏に隠れる訳にはいかなかった。
そこで考えたのが文字ニュース。元々下から上に動いている文字に合わせて上昇すれば群衆の目を欺けるってわけだ!」
「なるほど?文字ニュースのからくりにも気づいてたってわけか」
「ああ、昨夜ここに流れたニュースは『大好きな女性大募集』。
意味不明だろ?あれは『大好き』じゃなくて『犬好き』。犬の点の所に黒い服を纏ったお前が隠れて上昇してるって気づいたってわけだ」
そう、怪盗キッドが目に焼き付くほどの白い衣装を纏っている理由。
それは大胆不敵でもなんでもなく、ただ隠れやすいから。
白い物が突然消えれば、人は無意識に白い物はどこだと目で追ってしまう。
キッドはそれを利用したのだ。
「じゃあ教えてやろう、名探偵。
暗闇の中から突然白い物が現れると、人はそこに目が行く。
その様子はまさに、ミステリアスだろ?」
そう言って黒いマントを剥ぎ取ったキッド。
群衆からは、それがまるでビルの壁に立っているかのように見えた。
「まあ観念するんだな。
このままお前が上に上がれば、お前は助かるかもしれねぇ。
だが、待ってるぜ?あの人が。
垂れ幕の下でお前の仲間が降りてくるのをな!」
「そうだろうな。
おい名探偵!これを、彼女に渡してくれ!」
そう言って、キッドは1枚のカードを投げた。
「じゃあ俺は、上でも下でもなく、真ん中からおいとまさせてもらうぜ?」
キットはそこから飛び降りると、幕の裏にいた仲間の手を取って、網を超えるギリギリの高さで飛んで行ってしまった、
『目当ての宝石ではなかったので、ミュールはお返しします。
怪盗キッド』
このカードとミュールを置いていって。