第15章 奇術師
『では皆さん、ごきげんよう…』
再びポムッ!!という爆発が起きて、パラシュートは消えた。
テンションが上がらない…?
一体何を言っているのか。
カードからの音声を聞き終えた群衆からは網の中に入れろ!のコールが止まらない。
「おーい!キッドは観客が欲しいってよ!!
みんなで入っちまおうぜ!!」
そんな声がどこからか聞こえた。
途端に外にいた群衆は網の中へ一気に入っていく。
このままでは、足止めしているらしいテレビ局のスタッフも、屋上へ入れざるを得ないだろうな。
にしても何故だ?何故キッドは観客を欲しがる?
観客がいなければ成り立たないトリック。
やはり、数多にいるこの群衆に紛れる必要があるんだ。
だとしても、20秒足らずでどうやって屋上まで?
逆に考えれば、20秒がなければ屋上へは辿り着けないということか。
しかし、その20秒の間にもキッドは立て続けに3枚のカードを放っている。
ビルの中に入ったり何かに隠れていたとしたらそんなことは出来ない。
姿を現したまま誰にも気付かれずに短時間で屋上に移動するなんて事、可能なのか?
そんなことを考えていると、またしてもポムッ!!という小さな爆発と共にパラシュートが舞い降りてきた。
『ではギャラリーも賑わってきたようですので、間もなくショーを開演したいと思います!
ごゆるりと、お楽しみ下さい』
その言葉を聞いた周りは、キッドコールで溢れかえっている。
まるでもう盗ったかのような盛り上がりだ。
「コナンくんは分かった?キッドの瞬間移動のトリック」
「いや…」
足元にいたコナンくんの目線に合わせるために、私はしゃがんだ。
するとちょうど、園子さんの手に握られた携帯電話のテレビ中継が目に入った。
『では、キッドが現れるまでもう一度昨夜のVTRを見てみましょう。
まず、錦座四丁目交差点の真ん中に設置された展示台に颯爽と降り立ったキッド!
そして煙幕とともに姿を消し、約20秒の沈黙の後、ビルの屋上に!まさに奇跡!
これはまさしく瞬間移動といえましょう!!』
あれ…?
今、確か……
___大好きな女性大募集!
画面に大きく映っていたのは、ビルの側面にある動く電光掲示板のこの文字であった。