第15章 奇術師
そしてその日の夜、
「あっ!蘭さーん!園子さーん!」
「「さーん!」」
彼女達の名前を呼んで手を振ると、こちらに気づいた様子の2人も私に手を振ってくれた。
「聞きましたよ!朝、蘭の家の前で寝てたって!大丈夫だったんですか!?」
私が2人の元にかけてくるなり、肩を勢いよく掴んで聞いてくる園子さん。
「だ、大丈夫よ!なんともなかったから!
それより、蘭さん達には本当にお世話になりました。
毛利さんは…?」
「あー、父なら今日はやっぱり来ないそうです。
ヨーコちゃんが歌番組に出るとかで…」
「あら、それは残念」
「すみません…」
「いいや!また今度ご挨拶するわ!」
昨日と同様、錦座四丁目の歩行者天国のど真ん中にミュールはあった。
昨日と違うのは、四方を囲っている網の中には警備の警察官数名しかいないということ。
群衆は入れるつもりはないらしい。
ガードマンではなく警察官という所を見ると、鈴木次郎吉相談役は今日は捜査二課と合同で警備に当たるのだろう。
「キャー!キッド様♥」
隣で園子さんが携帯に見惚れていた。
「あら、それって昨夜のテレビ中継?」
「はい!待ってる間暇だから昨日録画したのを携帯で観てるんです!キッド様の白い御姿を♥」
携帯画面のキッドも相変わらずキザなセリフを吐いている。
「ねぇ、前から不思議に思っていたんだけど、どうしてキッドって白い格好をしてるのかなぁ?現れるのっていつも夜だからなんだから黒い方が目立たなくていいと思うんだけど…」
「そんなの決まってるでしょ!?怪盗は大胆不敵で華麗だからよ!!」
確かに蘭さんの言う通り、黒の方が目立たない。
それでも白い衣装を身に纏う理由は一体…?
ポムッ!!
突然小さな爆発が網の中の上空で起こり、パラシュートのようなものが舞い降りてきた。
『皆さんこんばんは、怪盗キッドです!
せっかくお集まり頂いたのに恐縮ですが、今宵のマジックショーは中止したいと思います』
そんな音声が、パラシュートに括り付けられたカードから流れてきた。
これを聞いた群衆からは残念がる声が上がる。
『私の奇術を披露しようにも、それを間近で観て頂く観客もテレビカメラもないこの寂しい状況では、どうにもテンションが上がらなくて…』