第15章 奇術師
人より記憶力には自信があったから、思い出せないなんて初めてで何だか気持ちが悪い。
お酒で記憶を無くした時とは違う、なんだか頭の中にしこりがあるような感覚。
キッドと何を話したのか、
何だか、私にとってすごく大事なことだったと思うんだけど…、
やっぱり思い出せない。
「さんも朝ごはん食べますよね?」
頭を悩ませていると、キッチンから顔を覗かせた蘭さんが私に聞いてきた。
「い、いや!!突然お邪魔した上にご飯まで頂くなんてそんなこと出来ないわ!!すぐに出ていくので、お構いなく!」
「そんなに気にしないで下さい!お父さんもまだ起きてきそうにないし、それに、簡単なものなので!」
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて…」
これ以上断るのも逆に失礼かと思い、ありがたく頂くことにした。
それにしても、人の家の前で寝て、突然お邪魔して、挙句ご飯までご馳走になるとは、本庁の鬼才が聞いて呆れる…。
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蘭さんの作るご飯は、ものすごく美味しかった。
簡単なものと言うからトーストとかかと思っていたら、白飯に味噌汁に焼き鮭。
しかも鮭にはちゃんと大根卸まで付いていた。
普段の私は、朝時間が無くてバタバタなため基本バー食品で済ませている。
ここまでちゃんとした朝ごはんは何年ぶりだろうか。
本当に、ものすごく美味しかった。
蘭さんの女の子としての魅力を更に思い知った瞬間であった。
「本当にありがとうございました。ご飯もすごく美味しかったわ!」
「それは良かったです!」
「…あの、毛利さんにもご挨拶しなくて本当に大丈夫かしら?」
「はい、多分父はまだぐっすりだと思うので」
「そう、じゃあまた今夜お会いするかと思うからその時に!」
今夜再び怪盗キッドがあのミュールを盗みに来る。
その時に、また会えるかどうかは分からないけど、このジャケットを返さなくては。
そして、一応お礼も。
蘭さん達のお宅を出て、1度自宅へ帰る。
今日が非番で本当に良かったな。
それにしても、怪盗キッドのあの瞬間移動は一体どんな手を使ったんだろう。
恐らく今日も同じ手法で行われるはず。
それまでにタネを暴きたいな。