第15章 奇術師
翌日、
鈴木次郎吉相談役が怪盗キッドへ挑戦状を叩き付けたというニュースが朝刊にデカデカと載っていた。
昨日ちょうどその話になったから、気になって新聞に目を通す。
すると、突然携帯が鳴った。
「もしもしです」
『あ、朝からすみません。毛利蘭です』
蘭さんから電話なんて珍しい。
一体何の用だろうか?
『えっと、実は…、あ、ちょっと園子!!……
もしもし!!昨日会った鈴木園子です!!』
電話先の相手が変わり、元気な声でそう名乗った。
「あら園子さん、どうしたの?」
『実は、今日の夜錦座でキッド様とおじ様の対決があるんです!!良かったら一緒に行きませんか?』
興奮気味の園子さん。
恐らく、ちょうど今新聞で読んだ内容のことだろう。
…正直に言うと、少し興味があった。
なぜ彼がこんなにも奇術師と持て囃されているのか、みんなが彼に魅せられている理由を知りたかった。
“奇術師”は、私にとって特別なものだから。
「じゃあせっかくだし、ご一緒させてもらおうかしら」
やったー!!と電話の向こうから聞こえてきて、
『集合場所と時間は後で蘭からメールしますね!じゃっ!』
と言って切れた。
全く、どっかの後輩みたいにすごい勢いの子だ。
それからしばらくして、錦座四丁目に夜6時集合というメールが蘭さんから送られて来た。
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伝説のミュール、“パープル・ネイル”
つま先には100カラットのアメジストが光り輝いており、神聖ローマ帝国の君主、マリア・テレジアも目を奪われたという幻の秘宝。
これが、今回の怪盗キッドの獲物だそうだ。
「随分大胆なのね〜」
「今回もおじ様張り切ってましたから!『彼奴の翼をもいでやる!!』って!」
「なるほど、だから地上ってわけね」
今回お宝が展示されているのは、錦座四丁目の歩行者天国のど真ん中。
まるで盗ってくれと言わんばかりの光景だが、これこそがあの鈴木次郎吉相談役の狙いだそう。
いつもは警備の為、高い位置にお宝を展示することが多いそうだが、ハンググライダーという名の翼を持ったキッドにはそれこそが絶好の狩場だということに気が付いたらしい。
だからこそ、お宝を地上に配置することで、ハンググライダーで飛んで逃走することを防ごうという算段なんだとか。