第14章 魔法の呪文
「おいおい、何であんたら座ってんだ!?」
「あ、でも今警部さんが…」
1人立っていたのは、モデルをしているというトビー・ケインズさんであった。
「Sit down please.
『しらんぷり』は英語を聞き慣れた人の耳にはこう聞こえるのよ、
『どうぞお掛けください』って。
イスの前に立たされていたなら尚更ね」
「つまり、見かけは外国人だけど中身は日本人で、しかも英語に慣れていない人の耳には、元の意味の『知らないフリ』にしか聞こえないってわけ。
これがどういう事だか分かるわよね?犯人さん?」
ジョディと私が淡々と説明していく中、トビーさんのこめかみには汗が滲んできていた。
事件を整理するとこうだ。
拳銃で撃たれたのは外国人タレント事務所の社長。
その社長が外国人のタレントの卵と今日会う予定だった事や、警察の到着が早かったことから容疑者は、
社長の死体の第1発見者である秘書のイリーナ・パーマーさん、
犯行時刻にこのホテル内にいた外国人である
英語教師のハル・バックナーさん、
モデルのトビー・ケインズさん、
そして、階段でトレーニングに勤しんでいたFBIのアンドレ・キャメルさんの4人となった。
手掛りは社長の机の上にあったちぎられたメモ用紙。
鑑定により、社長が死ぬ間際に書き残したメモを犯人が持ち去ったと推測され、ペンの跡から割り出されたその文字は、
Bring my tux…私のタキシードを取ってきてくれ。
イリーナさんの証言により、メモは社長がイリーナさんに宛てた伝言だということが分かった。
そう、犯人はメモの内容が読めなかったのだ。
意味が分からなかったから怖くなって持っていったのだろう。
となると、英語教師をしているハル・バックナーさん、
英語で伝言のやり取りをしていたイリーナ・パーマーさん、
FBI捜査官のアンドレ・キャメルさんは除外され、
残るはトビー・ケインズさんただ1人になるという訳だ。
「しょ、証拠は!??」
「内容が分からなかったら、後からその意味を調べようと思うはず。
恐らくまだ持っているはずよ、あのメモ用紙を」
「失礼します」と言って、高木くんがトビーさんのジャケットを調べる。
そして、例のメモ用紙が発見された。