第2章 邂逅編
「他の奴らがもたついてる間に早く行こうぜ、ブランコ取られちまうだろ」
『あっ、うん…!』
本当なら心のままに笑顔でありたいけれど、格好付けたいというのが男の子。あまり自信なさげなハルカににっ、と笑いかける悟。悟に引かれ、腕から手首を掴まれたハルカは共に走り出す。引っ張られるからイヤイヤ着いていくのではなく、自分の意思で靴を履き替えに走っていく。
同じように、他の子供達がきゃっきゃと笑いながら、仲の良い子達と共に靴を履き替えに走ってる。それを見た保育士が「廊下は走らずに歩いてね」と優しく伝えても、体を充分に休め有り余る体力を発散せずには居られない子供達は聴こえていても友達達と居るこの時間は自由だった。あちこちで走り回ってる。
ハルカ達は先頭というわけではないが、靴をタンッ、と玄関のタイルに叩きつけるように取り出して慌てて履き、踵を潰しながらも外へと走り出す。悟はもうハルカの手を引いていない、代わりに僅かに後ろを振り向き、彼よりも少し遅れて付いてきてる彼女に「場所取りしとく!」と計画的に足の速い悟ならではのハルカへの配慮を欠かさないように、先に遊具へと向かっていった。
障害物は無いが、出来るだけショートカットするようにブランコ目掛けて息を切らせて加速する悟。少し遅れたとはいえほぼ同じタイミングで靴を履き、走り出したはずのハルカとの距離はどんどん離れていき、悟は見事いくつか並ぶブランコのふたつ、間で足を止めてロープをぎゅっと握った。自身とハルカの分を確保出来たのだ。
「おーい、ハルカ~!」
まだそこを走ってんのかよ、とでも文句を言いそうなやや不機嫌な悟。彼女を追い越す少年達は悟がキープしたブランコとは別のものや、滑り台、シーソーなどの標的を捕らえ真っ直ぐに走っていく。それぞれが遊び始めるタイミングで遅れてやってきたハルカは悟の前で膝に手を当て、はあはあと呼吸を整えようとしてるのをじっと見ている悟。
以前の彼であれば他の子供と遊ぶ時、どういう態度だっただろう?そもそも誰かのために遊具をキープしていなかったし、むしろ先に遊んでいた。文句も言っただろう、遅ぇよ、等と。