第2章 邂逅編
引っ越しをして、まず最初に家財を整理していく。
父親と姉と、知り合い……、こちらにみたらい一家を引っ越しさせるきっかけの仕事仲間が荷物整理をする中で母親とハルカは公園に息抜きに向かった。
そこで彼女にとっての運命的な出逢いを果たすなんて誰が知っていただろうか?特別な存在との出逢いは最悪ではあったが、それでもふたりの知らない、消えない約束は続いている。
赤い色なんて言わない、白銀の強力な糸……いや、鎹(かすがい)がふたりを引き寄せたのかもしれない……。
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「おい」
ぺち、ぺち、と肩を叩かれる衝撃……叩かれるという割に加減された力で痛くはない。
その幼い男児の声と肩への感覚に彼女……ハルカは瞼を開く。保育士達が遮光カーテンを開け、園児達が眠そうな顔して、あちこちであくびをしながらもたもたと布団を片付け始めているいつもの光景。
蛍光灯の明かりが眩しい。寝起きという事もあり、ハルカは今にも閉じそうな瞼を片手で擦りながら眠っていたその体を起こす。彼女の肩を叩いて起こしたのは同じ年の少年。ハルカが以前居た、小規模で差別的な園児の居る保育園では見ることの無かった、同じ髪色の五条悟という少年。
悟は眉を寄せ、眠そうなハルカの顔を訝しそうに覗き込む。目は開けていても寝ているのでは?と彼は怪しんでいるんだ。
覗き込まれるまま、ぼーっと悟の顔を見つめ返すハルカ。ゆっくりとしたまばたきをして、未だに眠いと顔に貼り付けている。
ハルカは彼の瞳が好きだった。何故ならば夏の照り着く太陽を受けて輝く水辺みたいに、キラキラとして綺麗な青い瞳だから。吸い込まれそうなほどの瞳、悟の遺伝的なその青にはいつも惹かれている。
その澄んだ瞳の持ち主は鼻でフスッ、と笑って不機嫌そうだった口元に弧を描く。その唇の端を彼自身で指差してハルカから目を逸らさない。
「おい、オマエ……よだれ垂れてる」
『えっ』
眠い目を擦ってた手で指されただろう口元を擦るも濡れた感覚はない……反対側も。
それがどういう意味かを思い知ったハルカは焦った様子から少しだけ怒った表情を浮かべて、未だ体に掛けていたタオルケットを思い切り剥がす。