第2章 邂逅編
ぱたぱたと玄関を跨ぎ、『お邪魔します』と上がり込むその背を見て母はドアを締める。他所様の大事な子供を預かるのだから、しっかりと鍵もして。
泊まるのだから今までにないくらい一緒に居られるのに、その僅かな時間すらも勿体なく感じてる悟はそわそわして待っていた。
「おせえよ、ほら、早く遊ぶぞ!」
靴を脱ぎ捨てた所で手を引っ張られていくハルカ。そのハルカの靴を悟の母が揃えてあげる中で、悟は既に我慢出来ない笑顔を浮かべてハルカを部屋に連れていくのだった。
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部屋にはテレビもゲーム機もあるし、漫画だってある。
ハルカはまだ、姉と一緒の部屋で過ごしているから彼女にとっては悟は羨ましくも感じていた。
五条悟は、この家…五条一家の一人息子。
一人だからこそ向けられる愛情も多く、たくさん物を買い与えられる。両親だけじゃない、宗家である呪術師として家が続いている五条家からも、数百年前の最強の呪術師と同じ名前と似た容姿という事で贔屓されているという事もあり、彼自身よく分かって無いままにたくさんものが送られているのだ。
恵まれているはずなのに"なにか"が足りない。きっとこれは子供だから分からないのではなく、大人でもきっとそのヒントを知らなければ答えが分からない、欠落感を抱えながらも悟はハルカと一緒に過ごすこの時間がその穴埋めをしてくれるような気がしている。
小さくして悟に与えられた、悟だけの部屋の中央には白くて楕円形の天板のローテーブルがある。
そのテーブルを前にしてふたりは並んでクッションに座り、隣同士にこにこと見つめ合っていた。
『「………」』
言葉は無く、ただ心の中はずっとおしゃべりで。
ふたりとも口に出さずとも同じタイミオングでお泊りだ…!ずっと居られるんだ、と考え、何して遊ぼう?と気持ちがぐるぐると胸の中で膨らんでいる。