第2章 邂逅編
隣というわけじゃないけれども徒歩一分程度の距離の五条家。その道程は幼いハルカには遠く感じて、そして距離が近くなる程に胸が高鳴った。
母親がインターホンのボタンを押した。「おはよう御座います、みたらいです~」とマイクに向かって挨拶をして。しばらくすると、小さなカメラのレンズ越しに家の中の悟の母とやりとりを始める、そんな母親を見上げるハルカ。まもなく、小さなバタバタという足音が家の内側で聴こえてその慌ただしさは玄関前で止まった。インターホン越しの会話も途切れて。
ガチャ、と鍵が開けられドアを開けるのは先程母親同士をやりとりをしていたのを家の中から見ていた悟。ハルカが来た事に待ちきれなくなって、母よりも先に玄関からふたりをこうして迎えている。少しだけ息を切らせて一瞬パァ…!と明るい笑顔が溢れた後にすぐに不機嫌そうな顔になっている、が隠しきれていない事が丸わかりでハルカとハルカの母はアイコンタクトを取って悟のその眉間の皺を小さく笑った。
「あら、悟君、おはよう」
「……おはよう、ございます…、」
青い瞳がちらちらとハルカを見ては逸らされる、一見失礼とも思われかねない態度も交流ある家族にはとっくに本心は見抜かれている。
一応、悟の母には「その顔止めなさい」と少し前までは言われていたが最近はそのやりとりすらもカットされていたり。
ハルカの母に挨拶を返した後に不機嫌そうに睨むような視線をハルカに向けた悟は頑丈そうな玄関ドアのドアノブにしがみついたまま。半分開け放たれたドアの奥から、バタバタと悟の母が皆の居る玄関に向かって来ているのが音で分かる。
それではっとしたようにハルカは五条家の奥行きから目の前の悟に視線を戻した。
『悟君、おはよ~』
遅れてハルカも悟に挨拶をすれば相変わらずな無愛想な表情のままで小さく頷き、「おう」とだけ返した悟。
室内からこちらへとやってきた悟の母親。スリッパから外履きに急いで履き替える際にザリ、と僅かに砂を踏みしめる音を立て、悟の母が玄関から出てこようとしてる。
ドアノブにしがみつき、ドアに僅かに身体を隠してるような悟の肩に手を置き「悟、もうちょっと外に出て」と諭されて、彼はようやく一歩外にと出てきた。