第2章 邂逅編
しばらくするとぱたぱたと小走りにやってくる母。そんな姿を見てハルカも背筋をピンと伸ばして母の動作を視線で追う。父親には数秒前まで怒っていたけれども娘に向ける表情は朗らかなもの。
「さッ!悟君ところに行くよ!」
『うんっ!』
不安や緊張はあるものの、友達と今までにないほどに一緒に過ごせるという事。たくさん遊べるんだ…と期待がその不安な気持ちを上回る。
散歩という言葉を聞かされた飼い犬のように、しっぽでもあれば左右に振っていただろう明るい笑顔を母に向けたハルカ。そんな娘に母親はこれまでの暗かった彼女がこうも明るくなったのは、この新天地に引っ越した事は無駄じゃなかったのだと確信した。
「(──本当に、この地に引っ越してきて良かった…!)」
ぷっ、と吹き出すように笑いながらハルカの荷物を持つ母と、なんで笑ってるのか分からないという表情で紙袋を持つハルカ。
焼き菓子はさほど重くはない。互いに片手が空いた状態でそのまま母子は手を繋いで、『行ってきます!』の言葉を家に残し、笑顔で玄関のドアを開け飛び出した。