第2章 邂逅編
そっと自身の顔くらいまで挙げた片手。本当はそこで「じゃあな」とか「バイバイ」だとか子供らしく気軽に言いたい所だけれど、始めこそちょっと小馬鹿にしたり遊んでやってる少女のうじうじした姿から明るくなりつつある姿に少し感じるものがある。それを理解出来ない悟の精一杯の挨拶にハルカも同じように手を挙げた。
もう片手では車のドアを開ける手前まで。その悟に向けて挙げた手を少しだけ左右に振ってにこっ!と笑って。
『…バイバイ!』
「…ん、バイバイ」
彼女は先にみたらい家の車に乗り込み、いそいそとシートベルトを締めてる。
それを見ていつまでもこうしちゃ居られないと悟もドアを開け、五条家の車の後部座席に乗り込んだ。バムッ、と閉めたドア。小さな声はもう彼女には聴こえないだろう。
助手席のシートの背後に頭をこすりつけるようにして小さく彼はガッツポーズをした。それから小声で「っしゃ…!」と本音を漏らして。不機嫌という仮面を顔に貼り付け、我慢し続けた喜びが今になって溢れ出してる。
「(あいつと明日も遊べる…、しかも俺んちでずーっとだ!)」
そんな息子の愛らしい姿に、悟の母は笑い声を出さないようにそっとルームミラーで白髪の髪と、隙間から見えた拳を作る手を確認し、明日はハルカをどのようにもてなして息子と楽しく遊んで貰おうか、などと考えを巡らせつつ。
みたらい家の車が先に発車しながらに頭を下げたのに同じくどうも、と母親同士で返し合い、保育園から同じ方向へと車を走らせるのであった……。
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多くの時間を保育園で。そして保育園以外では公園やお互いの家に交互に遊びに行き、あまり文字を読むことは出来なくてもひらがな程度なら少しばかり読める、漫画をふたりして覗き込んでイラストの動きで漫画を楽しんだり、テレビに繋いだゲームで一緒にパーティーゲームや対戦ゲームをして時に笑い合って白熱したり、悟の意地悪が過ぎて泣かせそうになったり……。そうやって数ヶ月と経過していけばより二人の仲は深まっていった。
互いに"友達"という単語は出さずとも、以前は自分は相手を友達だと思っているが、宣言していなくても認め合って友達だという事は言葉なんてなくたってこの数ヶ月で理解しあっていた。