第6章 好機逸すべからず
いよいよ視認出来る距離まで迫ってきたジャンクション、相変わらず後方にはピタリとバーボンの車もいるけれど…
東京も近いからか道路を走る車の数も先程までより格段に増えていて、猛スピードを出したり無茶な追い抜きは出来ない状況に見える…
どうするつもりだ赤井さん…
その赤井さんはさっきから忙しなくミラーや周りの車を見ていて。否が応でも緊張感が高まってくる。
そしてついに分岐が近付いてきて…
「行くぞ、しっかり掴まれ」と赤井さんが発し、身体が反応出来た瞬間には車に急ブレーキがかかる。シートベルトが身体に食い込み、キュルキュルとタイヤが高い音を立てるのと同時に、身体がいっぺんに横に振られる。
「っ!!……ウソッ!!!?」
分岐の手前、垂直に立つポールすれすれで車線を外れ、隣の車線に無理に割り込もうとしている自車の目前には別の先行車、もちろんその車の後ろにだって車はいる…今にも衝突しそうな距離にギュッと目を瞑り、身体を硬くする…
……しかし衝突音が聞こえることは無く……
目を開ければ車は普通に走っていた。
後ろをそっと振り返れば、もう真後ろの車は白のスポーツカーではなかった。
「あの…どう、なりました?」
「バーボンは元の車線のままだ。彼も大事故を起こしてまで追うつもりはなかったんだろう…」
「よかったー…」
ドッと気が抜けて、身体の強ばりもなくなり…安堵の大きな溜め息が出る。しかし赤井さんは不服そうな雰囲気だ…
「結果は何も良くない、何の情報も得られなかったんだからな…」
「…そうですね…ジンもウォッカも見つけられませんでしたね…」
「まあ…捜査はこんなことの繰り返しだ……それよりもだ、バーボンは公安の人間なんだろう?」
「…そうですよ?」
「俺を捕まえる為に、彼がこの辺りの高速の出入り口に検問を張るなんてことは…ないか?」
「…うーん…そんなことが書かれてたことはないですけど…有り得そうですよね…でも彼が表立って動かせる人員はそんなに多くないと思いますよ…秘密警察みたいな人なんで」
「…しかし無いとは言い切れん、か……今夜はドライブだな。東京へ戻るのは明日にしよう、いいか?」
「はい…いい、ですよ…?」
先程までの緊張感はどこへやら…“ドライブ”なんてちょっと楽しそうな響きに心が浮き立ってきてるのが否めない…