第6章 好機逸すべからず
ホテルか…さっきは“今夜はドライブ”って響きにちょっと浮かれ気味だったけど…よくよく考えれば朝までずっと車の中というのも少々辛いかもしれない。
でもいくら彼の家で寝泊まりしてる身とは言え、それが外泊となると…ちょっと心がソワソワするっていうか変な感じだ。
「あれ?…もしかして私って、泊まるの拒否するべきですかね!?」
「……嫌なのか」
「そういう訳じゃなくて!ほら、“警戒心を持て”って言うじゃないですか…」
周りの人には聞こえないよう、口の横に手を立てテーブルの向かいの赤井さんにヒソヒソと伝える。
「その通りだな…」
「じゃあ…」
「しかしそれならこんな時間まで男と二人で過ごしていること自体が既に危険だ。土地勘の無い場所で、おまけに移動手段は男の車のみときた」
「わわ…たしかに……まあ、長距離走ってもらえるタクシーさえ見つかれば帰れなくもないですけど。お金なら帰ればありますから」
「帰るな…安心しろ、変な気は無い。今夜はお互い緊急事態だ…」
「ですよね?」
「しかしだ、わざと女を一人では帰れない場所まで連れてきて、良からぬことを企む男もいることは確かだ。男の車に乗るときは充分に気を付けろ」
「、っ……はーい」
いくらなんでもよく知らない男の人と二人でドライブになんて行きませんよ、って言いかけたのは既で飲み込み生返事をし……店のメニューを手にしてそれに目を落とす。
しばらくして店員から「部屋取っときましたよ!今から1、2時間後くらいでいいっすかね?」と聞かれ、了承し…テーブルには生ビールが2つ運ばれてきた。
今夜こそは酔っ払わないぞ!と謎の気合を入れ、控えめな一口目を頂いた。
赤井さんが頼んだ食べ物も次々にテーブルに運ばれてきて、私は適当にそれらを摘みつつ、ビールを少しずつ飲み進める。
何度かカウンター席の客達に話し掛けられ、それに応えていたら…
いつの間にか店中の人達と会話している状態になっていた。意外と赤井さんも愛想良く喋ってる。
予期せぬ和気あいあいとした空気の中、夜はどんどん更けていく。
あのカーチェイスは夢だったんじゃないかとも思えてきた。それくらい、和やかで楽しい時間。
こっちの世界に来てから、コナンくんや阿笠博士、赤井さん以外の人とこんなに喋ったのはきっと初めてだ。