第6章 好機逸すべからず
とにかく…あの車はバーボンで間違いなかったんだろう…
そのまま聞き耳を立てていれば、“教授ー?お邪魔しますよー?”と玄関から家の中へ入ったと思われる声と音がした。
彼は事件があった事に気付くだろうか…
無意識にゴクリと息を飲み、赤井さんと目を見合わせた。
その途端、予想もしてなかった彼の顔との距離の近さに驚き(数センチ程しかなかった!)後ろへ飛び退いてしまい、イヤホンは私の耳から外れコトン、と落ちた。
…そもそも二人で音を聞くんだったらイヤホンなんて必要無い訳で。私は受信器からイヤホンのコードを抜いた。
「あー…ビックリした…」
「俺の顔にまだ何か付いていたか?」
「そういうことじゃなくてですね…!」
しかしその数秒後だ、受信器からガサゴソと大きな雑音が聞こえ…更にその数秒後、ブツン…と音声が途切れ…それから聞こえてくるのは“ザーー”…って音、それのみになった。
「バーボンに盗聴器を壊されたか…」
「へ…?」
「ここから離れるぞ」
「っ!?」
赤井さんは車を急発進させ、高速道路の方へ向けて走り出す。すると後方から物凄いエンジン音が聞こえてきた。チラリと振り返ってみれば白い車がこちらに向かってスピードを上げてる…!?
「後ろ!バーボンの車が!」
「ああ…だろうな…逃げるぞ」
「そ…そうですよね…」
私達の車はあっという間に高速道路の乗り口へ、ETCのゲート前で減速すれば、もう結構な近くに白い車がいるのがミラー越しに確認できた…でも恐ろしくて後ろは向けない。
ゲートを抜けた瞬間から猛スピードで走り出され、息が止まる思いでシートの端を握り締める。
「…赤井さんだ、ってバレてないですよね…?」
「いや…バレているからこその、この猛追じゃないのか?十中八九盗聴器がアメリカ製で、しかもFBIでよく使われている種類のものだと気付いたんだろう…」
「え……っわ!あ、ぶな…!」
「すまんがしばらく我慢してくれ、どこかに掴まっているといい」
ヒヤッとするほど急な車線変更、他の車とぶつかりそうになりながらの無理矢理な追い越しが繰り返される。
これ、ジェットコースターの方がまだ心臓に優しい…