第6章 好機逸すべからず
「どうやら出ていったようだな…」と、隣で赤井さんが呟く。犯人の男が帰った、ってことだろうか…
そこに、自分のスマホにメッセージが届いた着信音が響く。おそらくコナンくんからだろう。
ずっと握ったままだった赤井さんの手をそっと離して、スマホを手に取る。
“なぁ灰原って本当に組織のヤツなのか!?信用できるのか!?つーかなんでそんなスゲー大事なこと先に教えてくれなかったんだよ!”
“今静岡県の広田って教授の家に向かってる…伝えたからな。これでいいんだよな。”
やはりメッセージはコナンくんからで。彼が怒ってることが容易に想像できる内容だった。改めて申し訳なく思う…
「赤井さん…コナンくん達、今コッチに向かってるみたいです」
「予定通りだな…それより、どう思う?あの車…」
「え……えぇっ!?」
スマホに落としていた目線を上げ窓の外を見れば、高速の出口から少し離れた所に白いスポーツカーが停車しているのが見えた。
「もしかして…バーボン…?…車は似てると思います…」
「車は同車種だ…偶然同じ、という可能性もあるが…」
「どうするんです…?」
「近付いてみるか?顔がギリギリ判別できる距離まで」
「はい…」
バーボンこと安室さんが私の顔を覚えているかは謎だが、一応昨日顔を合わせたばかりだし…キャップを目深に被り直す。
車を発進させ、徐々に近付いていく…
が、あと少しで中の人物が分かりそうな所で白いスポーツカーが動き出してしまった。さすがに後を尾けるのは控えよう、ということで先程まで白い車が停まっていた場所に私達は停車した。
白い車が向かっていったのは、教授の自宅のある方だ。
「…おや……また教授宅に訪問者だ」
「えっ…やっぱり私も音聞きたいです…」
赤井さんがイヤホンの片方を外して渡してくる。それを耳に挿せば聞こえてくるチャイムの音と人の声。
“ごめんくださーい…広田教授?……いらっしゃらないですか?”
「この声!バーボンです!」
「ああ…そう、だろうな…」
どうして彼がここにいるのだ。
物語の流れは変えていないつもりだったけど、もう既に何かが変わってしまってるってことなのか…それとも原作には書かれてなかっただけで、実際にはバーボンも広田教授の家は訪ねてたってこと…?