第6章 好機逸すべからず
まだ陽は沈んでいない、でも夕方と言える時刻に私達は目的地に到着した。教授の自宅の周りをぐるりと走ってみたけど、怪しい人物や車は見当たらず。
近くのコンビニで食料と飲み物を調達し、教授宅からは少し離れた道端で赤井さんは車を停めた。
「なんか…勢いで色々買っちゃったけど緊張してるからかな、全然お腹空いてないんですよね…」
「無理に食べる必要もないが…食べれる時間がある内に少しは食べておけ」
「ですよね…」(食べれない時間なんてないことを願いたいけど)
運転席の彼はコーヒー片手にホットドッグをどんどん口に入れていく。ちなみにホットドッグなのは、好き嫌いの問題ではなく、“手を汚さずに素早く食べられる”からだそう…
私もハムレタスサンド(3個入り)の入った袋の封を開け、一切れ取り出しパクリと一口齧る。レタスを咀嚼するシャキシャキとした音が静かな車内に響く。
ピリッとしたマヨネーズが効いてて自分好みの味、なはずなんだけど…いつも程美味しさが感じられない。
一切れは食べ終えたが、次の一切れには手が伸びないまま数分が経過した。
「食べんのか?そろそろ夕暮れだ、移動するぞ」
「…あと一切れは…食べようかな」
「じゃあもう一切れは俺がもらおうか」
「…いいですよ、はい…どうぞ…」
サンドイッチを赤井さんの方に一切れ差し出せば、口の方が早かったか手の方が早かったか、片手で受け取られたのとほぼ同時に口でもカブり付かれ、あっという間に全てが彼の口内に収まっていった。(決して“あーん”をした訳ではない)
「食べるの早…」
「さんが遅いだけだ…車を出すぞ」
「はい…」
気乗りはしないものの、残された一切れを手に取る。口に含んでは、咀嚼、嚥下を繰り返した。
外は少し暗くなってきた。車は教授の自宅へ向かっている。