第6章 好機逸すべからず
ゆっくりと声を発する赤井さんは相変わらずサングラスを掛けたままで…顔色をハッキリとは伺えないけど、なんとなく、優しい目をしてるように思う。声色が普段より柔らかく感じるからか。
「君のせいで人が死ぬ訳ではない。広田という教授も、宮野明美も」
「…そうだと思いたいです」
「そうだろう?さんは、彼らの最期をたまたま知っていただけだ」
「そう、ですけど…」
「…しかし俺からすればさんのような境遇は羨ましいがな」
「きっと誰だって最初はそう思いますよ…」
「最初だけか?先の事など分からんだろう、君がどうなるかは物語には書かれていなかったんだ…結果が良くなるも悪くなるも、君次第だ」
「私、次第…」
「はでしかない、他の誰でもない。住む場所は変わったのかもしれんが、君は君だ。気負わず楽しめばいいじゃないか」
「…そりゃあ、楽しみたいですよ?でも…」
「辛い時は俺を頼ればいい。俺は、君の事情を知っている数少ない友人の一人だろう?」
どうしよう…目頭が熱い。こんな外で、人目のある場所で、泣きたくないのに…目の前がボヤけてくる。
「赤井さんは…なんでそんなに、やさしい…」
「隣でずっと浮かない顔をされてみろ……おい…今度は泣くつもりじゃないだろうな」
「…泣くつもりなんてない、です…っ」
泣きそうになってる顔を見られたくなくて下を向いていると、ジュ…と煙草の火を消す音がして。私の真隣、すごく近くに赤井さんの身体が迫ってきたのが視界の端で分かった。
まさか、と思った時には肩を抱かれ引き寄せられて彼の腕の中…優しく頭の後ろを撫でられればその心地良さに涙が一気に溢れてきそうになる。
でも外で泣くことよりこの状況の方がよっぽど恥ずかしい…!?
赤井さんの身体を押し返すけれども、大きな身体は少しも動かない…
「あの!…泣かないから!…離して、ください…」
「もう泣かないか?」
「はい!恥ずかしくて涙も引っ込みました!」
小さく笑いながら彼の腕は緩み、密着していた身体は離れていくものの、それでも未だ近すぎる距離。その場に立ち上がり、無理矢理後退る。
「さ!車戻りましょ!」
「…そうだな」
強い風に吹かれ煽られるように車へ戻った。