第6章 好機逸すべからず
不思議なものだ。数分もしない内にこの高速走行に目も身体も慣れてきたようで…ずっと固く握り締めていた手を開いて、シートに深く座り直す。
この世界と私の元いた世界の地理的状況が同じなら、おそらく2時間半〜3時間程で着くであろう目的地。陽が落ちるまでに着けそう。
いや、このスピードならもっと早いかもしれない。
運転席のパネルを覗けば…針が指しているのは150km付近…赤井さんの運転は基本的に上手…とは思うものの、交通事故が心配になる数値だ…
今頃コナンくん達はニセ札製造犯を見つけて後を追跡してる頃だろうか。一応今日の出来事もあのノートに書いておくべきかな……そうだった。ノートだ……
「すみません赤井さん。朝言ってた大事な忘れ物って…ノートのことですよね…?」
「ようやく思い出したか」
「厳密に言いますと昼頃気付いたんですが…言い出すタイミングが無くてですね…」
どうにもバツが悪くて、視線を窓の外へ向けたまま喋る。呆れたような声が返ってきて、更に情けなくなってくる。
「それで?その重要機密が書かれたノートはどうした?」
「探したけど見つからなかったんです…赤井さんの部屋に…あるんですよね?」
「何?リビングになかったのか?誰かに盗まれたか…」
「えっ!?嘘でしょ!?」
それは非常にマズいのでは!?って赤井さんの方へバッと顔を向けたんだけど……その口元が愉しそうに笑ってるもんだから一気に気が抜けた。
「絶対盗まれてないですよね…いつも玄関は鍵掛かってるし…それに赤井さんがあのノートを放ったらかしにするとは思えません…」
「だがさんは放ったらかしにした訳だ」
「うぅ…すみませんでした…」
「…分かったなら、同じ過ちは繰り返さないことだ」
「はい…」
赤井さんは声を荒らげることもなく、淡々と言い聞かせてくれるのだけど…
自分が情けなくて…小さく溜め息が出た。
そのまま特に大した会話もなく、私達の乗る車は先行車をグングン追い抜いて進んでいく。