第6章 好機逸すべからず
赤井さんが洗面所を使っている音が聞こえてきて、ぴしりと固まっていたままだった四肢をようやく動かす。
数分後料理も完成し、テーブルの上に並べ終える頃には彼もリビングにやって来た。
特に何の会話もなく向かい合って座り(いつの間にかお互い座る席は定着している)、なんとなく重たい空気のまま朝食が始まる……
「パンではない朝食は久しぶりだな…」
「あっ…赤井さんって朝はパン派でした!?」
「いや?特にこだわりは無い」
「そっか…よかった…あの…ご飯の量はこれくらいでいいですか…?」
「そうだな。丁度いい」
一瞬ヒヤッとしたものの、大丈夫だったようで……その後は無言で食べ進めた。
チラチラと彼の方を伺いつつ…赤井さんが全てを食べ終わったタイミングで、思い切って切り出す。
「あの…昨日は、色々すみませんでした…これからは気を付けます」
「…分かったならいい。だがもっと大事なことを忘れていないか?」
「……?……大事なこと……」
忘れている、大事なこと…そんなことあったか。昨夜のキスのことなら私の中では“大事”と書いて“おおごと”だが、おそらくソレのことでは無いんだろう。
「分からないなら今はいい……近々にシェリーが動く場所の見当はまだ付かないか?」
「コナンくんには分かり次第スグ連絡してっては言ってあります…でもとりあえず彼らが学校に行ってる間は何もないと思いますね」
「シェリーも学校に通うのか?」
「はい、もちろん。小学生だからランドセル背負って」
赤井さんが見たこともない変な顔をしてる。あの彼女が小学生を演じてる所が想像できないんだろう。
「とってもクールな小学生ですよ!彼女は」
「だろうな…」
よかった……私が忘れているらしい“大事なこと”は未だに思い出せないものの、赤井さんと普通に喋れていることに安堵を覚える。
でもふと、彼が小学生だったらどんな感じだろう…?なんていう想像が頭に広がってしまい……目付きの悪い子供らしくない口調の男の子が浮かんできて…思わず小さく吹き出してしまった。