第6章 好機逸すべからず
翌朝…早朝とは言えない朝の時間に目が覚めた。
とりあえずスマホを確認すれば、コナンくんから“分かったけど、一体何が起こるのか先に教えてくれない?”、と了承と催促の返事がきていた。悪いが適当に返信した。
さすがに今日は赤井さんと顔を合わせなければならない。
さっと髪の毛を手ぐしで整えてから、自室を出る。その足取りは悪いことをしている訳でもないのに忍び足だ。
音もない、誰もいないリビングを通過し…キッチンで水を飲み、洗面所へ向かい…そっと扉を開ければその中も浴室も無人。
歯を磨き、顔を洗い、またリビングに戻ってきてもまだそこはシン…としていた。
とりあえず朝食の準備に取りかかった。(あまり手間は掛けないが)
簡単な味噌汁を作り、僅かに残っていた昨日の肉じゃがの鍋の中に具材を追加して煮込み、あとは卵で閉じれば立派な一品になる。
もちろん二人分用意したのだけれど……未だに赤井さんの姿が見えない。まだ寝ているのか。時刻はもうそろそろ午前10時だ。
そろそろ起きた方がいいのでは?と思うけど、起こすのは…気が引ける。もし眠ったのが遅かったんなら悪いし……彼の寝起きの良し悪しも知らないし…
迷いながらも彼の部屋の扉の前に立ち、顎に片手をあてて考え込むことしばらく。
ガチャリと目の前の扉が開きかけ、昨夜の洗面所での事が一瞬にして脳裏に蘇った私は後退り、くるりと後ろを向いた。
「お!おはようございます!」
「…おはよう……美味そうな匂いがするな…」
肩に大きな手が置かれ、頭のすぐ近くで発せられた低い声に心臓が跳ねる。
「はいっ…朝ごはんの準備、できてます…食べますよね…?」
「ああ…先に顔を洗ってくる」
「はい…どうぞ…」
ほとんど無意識に片腕を洗面所の方へ伸ばし、彼が向かうのを促す形になる。
肩に置かれていた手が動き、伸ばした腕を撫でていき…指先まで滑っていって、離れた。そのまま赤井さんは洗面所へ向かっていく。
寝起きだからか若干ダルそうに歩く彼の後ろ姿を無言で見つめたまま、動けずにいた。
なんだろうこの変な感じ。
今触れられた場所がじんわりと熱を持っている気がする。