第5章 陶酔、溢れる本音
あ、あ、あの赤井さんと…キスしてしまった……!?
いくら酔ってるとは言え、その強烈すぎる出来事は一瞬にして鮮明に脳裏に焼き付いた。
自室に逃げ込んで床に座り込み、さっきから物凄い勢いで脈を打っている心臓の辺りを手で抑える。
すっごいドクドクしてる……どうしてだ。キスくらい、初めてでもないのに。
っていうか、私と赤井さんがこんな風になってはいけないのでは…!?
いやでもなんで……!?
座り込んだまま、どれくらい経ったか。すっかり酔いなんて覚めてしまったように思う。
やっと少し冷静になってきた頭には色んなことが浮かんでくる。
赤井さんってイギリス育ちのアメリカ在住だから、キスくらい何てことないのかも!
いや、でもさっきのは明らかに私への戒めであったと思う…ずっとお説教クサかったし。つまり“挨拶のキス”とかではない。
つまりは警告のようなもの、もっと警戒心を持て、ということであって…彼にはそれ以外の意味はきっと無かっただろう。きっと。
…うん。
キスなんて久しぶりだった……ダメだ、思い出すだけで心臓が煩くなる。無性に叫びたい、でもこの状況じゃ叫べない……!
ようやく胸のドキドキが収まると、このままでは布団に入れない状況であることに気付く。お風呂はもちろん、歯も磨いてない。
でも自室の外、リビングには赤井さんがいると思うと…部屋からも出ずらい。
部屋の扉に片耳をピッタリ付けて、リビング側の様子を伺ってみるけど……元々聞こえないものなのか、それとも赤井さんがいないからか、しばらくそうしていても、何の音も聞こえなかった。
いない方に賭けるか。でも、もしも彼がいたら…サッと謝ってお風呂場に行こう。よし!
そーっと扉を開けて部屋の外に出た…けどやっぱり物音ひとつしない。リビングには誰もいなくて、なんだかすごくホッとする。
サササ、と家の中を早歩きし、洗面所の扉を開ける。
「……っ!!!なんでいるんですか!もう!」
開けた扉を瞬時に閉めた。何故なら半裸の赤井さんが中に居たからだ。
「俺の家だぞ…居て当然だろう」
内側から扉が開きかけ、咄嗟に後ろを向く。
「さ、さっきは、すみませんでした!以後気を付けます!私もお風呂入りたいので!終わったら声掛けてください!」
振り返らずにまた自室へ一直線に戻った。