第5章 陶酔、溢れる本音
「ぷはー…水って美味しい!」
「そうだな」
「もうお風呂めんどくさいなぁ…」
「面倒なら俺が手伝ってやってやろうか?」
「……ん!?なんでっ!なんで赤井さんはイチイチそーゆう恥ずかしいこと平気で言うんですか!」
元々仄かに赤かった頬を更に赤くしながらさんが大声を張り上げた。こういう反応は全くもって、面白い。
「…分からんのか?君のそういう反応が楽しいからだ」
「もう…赤井さんってそういうキャラじゃないと思ってたのにー…」
……違うと言われても俺は俺でしかないんだが。俺はその物語では一体どういうキャラクターだったんだ?
腰掛けていた椅子ごと彼女の方へ寄り、真横からさんの顔を覗き込む。
「俺だって普通の人間の男なんだがな…」
「……赤井さんは普通の人間じゃないです!私からしたら織田信長とか坂本龍馬みたいなもんなんですから…」
「信長も龍馬も同じ人間の男じゃないか」
「…たしかに、そう言われてみれば…?」
「だろう?あまり男を買い被りすぎると痛い目を見るぞ」
「…赤井さんは優しいから大丈夫!」
そういう無防備な発言をどうにかしろと言っているんだが……
たっぷりと口にした水のおかげか、彼女の濡れて光る唇がやけに目に留まり、視線を離すことも出来ず……身体が動く。その唇に、触れるだけのキスをした。
柔らかく、温かかった。
「っ……ぇ……!?」
「気を付けろ、男の前で酔い、愛想の良い事ばかり抜かしていれば普通はこうなる」
「ぇ…っ…?…で、も…っ!?」
「それとも、もっと酷い目に遭わないと分からんか?」
「……ッ!?」
耳まで真っ赤にし、慌てふためき狼狽えるさん……これで灸は据えられただろうか。
「お、おやすみなさいっ!」
誰に向けて言ったんだか…此方も一切見ずに就寝の挨拶を告げた彼女は、自室に姿を消した。
テーブルの上には重要機密が書かれているノートが置きっ放しである…危機感が無いにも程がある…
小さく溜め息を吐き…自分の酒を作り直し……煙草に火を点けた。
このノートは内密に俺の部屋に隠しておこうか。明日になって彼女がノートの消失に気付いたら、やらかした事の重大さを思い知らせてやろう。