第5章 陶酔、溢れる本音
「ねーえ赤井さん?」
「なんだ」
「もしかして、赤井さんってしばらくお酒やめてたんですかー?」
口調まで若干酔いを帯びてきたらしいさんに問われ、どう返すべきか迷う。
「…物語には書かれていなかったか」
「はい。だって物語上だとまだ赤井さん登場すらしてないですもん!もう少し後に登場して、明美さんの元カレだったこととか、ジョディさんの元カレだったことは後々分かるんですけどねー…」
「俺は過去の女のことまで知られているのか……」
「はい!車の中でジョディさんに別れを告げたシーンは有名です…切ない名シーンですー…」
「…………たしかにしばらく酒は殆ど飲んでいなかった。これは書かれていたか知らんが、組織を抜けたり明美の事があったりで俺はしばらくまともな休息も取れていなくてな…単純に飲む時間が無かったのもある」
まさかジョディのことまで知られていたとは。事実であるし、隠す必要もないが…やはり妙な心地になる。
だが“飲む時間も無かった”というのは少し違う。
あの組織を抜けてからというもの、一人で酒を飲むと明美の事が絶えず頭に浮かんでくるようになり……最終的に毎度酷い罪悪感に苛まれては、虚しい心地になり……
つまり、起きている間は仕事なり何かしらの作業をしていた方が遥かに気分がマシだっただけなのだ。体力の限界まで仕事をし、終わったら寝る、これが一番ラクだった。
「FBI捜査官ってそんなに多忙なんですね……もしかしたら明美さんのこと責任感じて断酒してたのかなぁ…って勝手に思っちゃいました…」
「……さんは何かしくじったら断酒するタイプなのか?」
「断酒する程しくじったことは無いですけど…でもあっちの世界で“ガンだ”って分かってからは不思議と飲まなくなりましたね。飲むとなんか余計悲しくなってきちゃって」
“俺と似たようなものだな”とは、言えなかった。彼女の前で変な意地を張っても仕方ないだろうに。
その後はさんの身の上話や俺の家族の話が続いたが……誰かとこんな風に酒を飲みながら話すのは久しぶりだった。
決して悪くない、穏やかな時間だった。
しかしだ…危惧していた事は起こった。