第5章 陶酔、溢れる本音
マンションを出てからすぐにさんが酔っている事には気付いていた。これまでの彼女に比べると極めて歩く速度が遅く、何なら歩き方も妙だったからだ。敢えて指摘はしなかったが。
両手を拘束しても、無理矢理酒を飲ませても、顔色ひとつ変えなかった癖に、たかが缶ビール1本で酔う。
彼女が何処かの諜報員や工作員である可能性はもう限りなくゼロに近いように思う。
しかし先程のキールと俺自身にこれから起こるらしい出来事は興味深かった。もっと詳しい所まで突き詰めて知りたかったが、それが起こるのはまだまだ先だそうだし…追々聞いていけばいいだろうか。
自宅に戻ってきて、再びテーブルに着く。さんは冷蔵庫から別の酒の缶を手にしてやって来た。椅子は横並びにしたままだ。
彼女は缶の封を開け、そのまま口を付け、飲み……ノートを広げ、ボールペンを手に“年表”とやらを書き始めた。細く綺麗な指に…女性らしい読みやすい文字。
真剣な顔でスラスラと書いていたと思えば、時折「うーん」と唸りながらしばらく考え、また書き出す。
しかし、一体何のことやら分からん項目も多い。作業の邪魔をしては悪いので、黙って眺めるだけに留めるが…
工藤新一や江戸川コナン、宮野明美、は分かるが…“ハカセ”や“少年探偵団”というのは分からん。
服部平次という人物の名と思われる文言と共に書かれた“パイカル”という酒の名は…新しい組織のメンバーの名だろうか。
ん…このキッド…とはあの宝石泥棒のことか?
そしてシェリー、宮野志保の名が書かれた。彼女はこれから“灰原哀”と名乗るようだ。つまり現在はこの辺りか。ここから先が非常に気になる。
すると大きな唸り声を上げたさんが、次の瞬間ペンをテーブルに勢い良く叩き付けた。
「なんかすっごい疲れた!また明日にします!」
「そうか…」
彼女はノートを閉じ、缶の中身を煽った。
「頭が熱い…」
「脳の普段使わん場所を使ったんだろう」
「…その通りですけど……それってなんか私の事バカにしてません?」
「そんなことはない…頼りにしているぞ」
「…あ、ありがとうございます…」
一瞬目を見開き、ほんのり頬を染め、僅かに俯き小さな声で礼を述べた彼女は……純粋に可愛らしかった。