第5章 陶酔、溢れる本音
ふと、我ながら良策を思い付いた。どうして今の今までこの考えが一度も浮かばなかったのか、不思議なくらいだが。
「赤井さん!このお家に新しいノートとかメモ帳なんて…無いですよね?」
「無いな」
「ですよね……私、この世界の年表みたいなものを自分なりに書いてみようと思って!」
「良いんじゃないか?…善は急げだ、コンビニに行くか」
「はい!」
とりあえず私は1本目の缶ビールを空にし、彼もグラスに入っていた中身を飲み干し、財布とスマホだけを持ち、近所のコンビニへ向かうこととなった。
マンションを出て、住宅街の暗い道を二人で歩く…のだが。自分の足元が妙に覚束ない動きをしている事に気付いてしまった。たったビール1本でもう私は酔ってるんだろうか…
でも酔ってるのは何故か赤井さんには気付かれたくなくて。背筋を伸ばして真っ直ぐ歩くよう努めた。
最寄りのコンビニに到着し、店内の棚の下の方に陳列されているノート類を発見し、その場に屈んで品定めをする。
「わー!可愛いのもある!これもオシャレだし!どれにしよう…」
「どれでも大して変わらんだろう…」
頭の遥か上から赤井さんの素っ気ない声が降ってきた。ちらりと声の主を見上げて、文句を垂れる。
「それはそうなんですけど…可愛いノートの方が書くの楽しいですし」
「分からなくもないが…とっておきの機密事項を記すんだからな…万が一の事を考えると見た目にはそれと分からん目立たないモノの方がいいんじゃないか?」
「なるほど…!さすが赤井さん…そっか…じゃあコレにします」
結局一番シンプルな見た目のB5の大学ノートを1冊手に取り、立ち上がる。
「っ…と、うわっ!」
「おい…」
立とうとしたのに真っ直ぐ立てず、身体がヨロけた。しっかり横から支えてくれた赤井さんのおかげで転ぶことはなかったけど。けど、大変お恥ずかしい有り様になった…
「すみません…ありがとうございました…」
「もう酔ったか」
「そんな訳……あるのかもしれませんけどまだ飲みたいです…」
「……とりあえず買って帰るぞ」
ひょい、とノートが取り上げられ、レジへ向かった赤井さんに支払いはあっという間に済まされてしまった。