第5章 陶酔、溢れる本音
「たしかに、赤井さんになら話してもいいのかもしれません…でも、赤井さんが先回りして何かしらの行動を起こして、この世界の流れが大きく変わってしまったら…もうその先のことは何も分からなくなります。出来る限り流れを変えないように、先のことが読める状態で動いた方がいいと思いませんか?きっと良い結末が待ってます」
「それも、一理ある、とは言えるが…」
「大きく流れを変えるような行動はしないって約束してくれるなら、話してもいいです」
「……余程の事が無ければな。例えばだが…この先死ぬと分かっている仲間をみすみす死なせるようなことはしたくない」
「…それはたしかに、私も同感です…」
「それでだ…俺はどういう経緯で“オキヤ”になるんだ」
「…え…っと……上手く話せるか自信ないんですけど…とりあえずザックリと、言いますね?」
「ああ」
何から話せばいいか。改めて自分の手でビールをゴクリと飲んで、記憶を引っ張りだす。
単行本を何度も繰り返し読んだ私だけど、あんなに長い漫画の内容の全てを細かく覚えている訳ではない。ひとつひとつ言葉を選び、発していく。
「キールって組織のメンバーはご存知ですか?」
「ああ」
「彼女は実はCIAの諜報員なんです…」
「なんだと……あの組織も鼠だらけだな」
「ほーんとそうなんです……で、この先赤井さん達FBIは、事故に遭ったキールを保護して病院で匿うことになります。キールの意識は戻らず、しばらく入院が続きます」
「ほう…」
「しばらく経って、キールの意識が戻ってることに気付いた赤井さんは、FBIの皆にも内緒で彼女と手を組むんです」
「…キールを組織に戻して、こちらの味方につける訳だな」
「そうです!」
「だが俺が“オキヤ”になるのとどう関係している?」
「えーっと…キールを奪還したい組織と、奪われたくないFBIとでバチバチした後、結局キールは組織に戻るんです、が…最初はやっぱり信用されません。裏でFBIと繋がっているのでは、って疑われます」
「だろうな…」
「で、ジンからキールに、“赤井秀一を呼び出し、殺せ”と命令が出るんです」
「有り得そうな話だ……俺を殺せばキールは再び信用を得られる、俺は殺されたと見せかけ、“オキヤ”に成り代わるという事か…」
「その通りです!さすが赤井さん、理解が速くて助かります!」