第5章 陶酔、溢れる本音
先程まで自分が座っていた椅子を私の側まで持ってきた赤井さんは、それにどっかりと腰掛けた。煙草に火を点け、吸い込み、煙を吐き出す彼はやっぱり色気たっぷりだ。
「話せ」、「嫌です」、水責め(というよりビールをただ飲まされている)、を数回繰り返しながらも……
彼が斜め下を向き煙草の灰を落とす仕草、お酒を口に含む所、何ならただ呼吸している姿も、全てをついつい目で追ってしまう。
溜め息を吐くように何度目かの煙を吐き出した赤井さんが言う。
「しかし…さんには警戒心というものが無いのか?今までに危ない目に合ったことはないのか」
「警戒心くらいありますよ!何なら今日バーボンに会った時なんて警戒しまくってましたよ…?」
「そうか……だが今はどうだ。君は自分の置かれている状況を分かっているのか?」
どうも尋問というよりは…お説教されてるように感じるのは気のせいか。私が何食わぬ顔で平然としてるからか。
「分かってるつもりです…私が脳天気な顔してるからですか?たしかに私の存在って、悪い人に知れたら危ないんだろうとは思ってます……でも、赤井さんは悪い人じゃないですもん!」
「悪い人間がいかにも悪そうな見た目をしているとは限らん」
「でも赤井さんが悪い人だなんて書かれてる所は無かった」
「そうか……まあ……話がだいぶ逸れてしまったな」
大きな溜め息と共に煙を吐き出し、煙草を灰皿に押し付け火を消した赤井さんは、次になんと私の手首の拘束を解いてくれた。やっぱり彼は悪い人じゃない。
「無理に縛ってすまなかった…痛くはなかったか」
「はい、大丈夫です…」
「初めて会った時もそうだったが…何故さんは俺に対して何の警戒もしない?」
「そりゃあ、赤井さんですし」
「“俺”はそんなに信用に足りる人物なのか?」
「ですね!」
「ではその俺になら全てを話しても問題ないだろう」
「あ……」(やっぱりその話に戻ってきちゃった)
そんなに出来が良い訳でもない自分の頭を必死に使って、最善の回答を考え込む。