第5章 陶酔、溢れる本音
壁際にあったスマホ等を充電する為のケーブル、それを手にした赤井さんが私の方へ口角を上げたままゆっくりと近付いてくる。
ついに目の前までやって来て「両手をこちらに出せ」と言われた瞬間、彼のしようとしてることが概ね分かり、自然と身体が強張る。
「出さないのなら勝手にさせてもらうぞ」
「あっ…!」
手首を掴まれ、あっという間に両腕とも身体の前でひとまとめにされてしまい、ケーブルで手首をぐるりと縛られてしまった。(手際良すぎ!)
普通に考えたら、拘束されて、今から尋問される!?なんていう危機的な状況なのに、不思議と恐怖はなくて……むしろワクワクしている自分がいるのが否めない。
「…これじゃお酒も飲めないですよ…」
「飲みたいのなら飲ませてやる」
私のビールが入ったグラスを赤井さんが手に取る。そのまま口元に近付けられ、ゆっくりと傾けられたことで流れてくる液体を口に含む、が、その量が多い…!
全てを飲み込みきれず、口の端からビールが溢れる。ケホケホとムセながら、手の甲でなんとか液体を拭う。服も少し濡れてしまった。
「これじゃ水責めみたいじゃないですか」(スパイ映画の拷問でよく見かけるやつ)
「全くその通りだな。これ以上手酷くされたくなければ、全部話してみろ」
「うぅ……」
実の所、手首の拘束はちっとも痛くないし、水責めと言うには先程のは優しすぎるし、なんせ目の前の赤井さんの顔付きがこれっぽっちも怖くない。絶対本気モードじゃない。
それに赤井さんがそんなに酷い事をするとも思えない…(希望的観測だけど)しかし手首を拘束されたままというのは大変不便だ。
「俺は何時まで掛かっても付き合うぞ?」
「この状態から開放されるには話すしかない感じですか?」
「そうだな。諦めろ…」
何処か楽しそうにも見える赤井さんに、もう一度グラスの端を唇に付けられた。何故か視線を絡ませたまま、流れ込んでくるビールを出来る限り喉へ下す。
また上手く飲み切れなかった液体が顎の方へ伝っていくのを、今度は彼の親指に拭われて……なんだか無性にゾクゾクした。