第5章 陶酔、溢れる本音
家に戻れば早速夕食の準備だ。
キッチンで作業を進めていると、赤井さんはちょこちょこ調理の様子を覗きにやって来た。
度々不思議そうに質問してくる内容から察するに、現在の彼の料理スキルはほぼゼロに近いようだ。
ただ、真後ろから手元を覗き込まれるのが非常に心臓に悪い。頭のすぐ近くで発せられる低い声もそうだし、すぐ真後ろにいるんだと思うと手元が狂いそうになって…私は何度も調理の手を止めることになった。
出来上がった料理をテーブルに並べて、向かい合って食事を始める。
白ご飯を片手に持ち、また逆の手に持つお箸でおかずを摘む赤井さん…すごく珍しいものを見ている気分…ちなみに魚の骨は難なく外せるようだ。
「美味いな…家でこんな物が食えるとはな…」
「ちょっと覚えれば誰でもこれくらい作れますよ!沖矢さんも作るしね」
「…“オキヤ”?誰のことだ?」
「あっ…」(しまった!)
「組織の人間か」
「違います…」
「では誰だ?」
「……赤井さんが、この先に使う偽名なんです…」
「俺はまた何処かに潜入するのか?」
「いえ!……まあ、その内分かりますよ!」
「その内ではなく、今知りたいんだが」
「……まだ内緒です、っていうか話そうにもすっごい時間かかりそうで面倒です」
「ほう…?それは益々気になるな。今夜は朝まで君の話を聞かせてもらおうか…」
「……っ!絶対いやです!」
茶碗を置いた彼がテーブルに頬杖をつく。向けられる挑発的な視線、どこか甘い響きを含んだ声に…いろんな意味でドキッとした。赤井さんってなんでこうイチイチ色気を振りまいてくるんだ。(いや、勝手に漏れ出てるのか)
その後は無言でひたすら料理を掻き込んだ。赤井さんはずっと勝ち誇ったような顔で笑ってるんだし……別に何も勝負なんてしてないんだけど、負けたような悔しい気分でいっぱいだった。
食後の一服を楽しんでいる赤井さんを横目に食器を片付けて……いよいよお酒にリベンジすることにした。
缶ビールと空のグラス、スコッチのボトルと氷を入れたグラスがテーブルに並んだ。
各々のグラスにお酒を注いで、いざ、乾杯だ。
グラスをカチリと合わせて、ゴクリとひとくち。うん、普通に美味しいし……酔っ払う気なんてひとつもしない。