第4章 思い出に浸る
医院の手前に見えてきた公園は、子供だった当時自分もよく遊んでいた場所。現在人気(ひとけ)は殆どなく、確認できるのは女性が一人だけ……でもその女性の顔を見て、一瞬自分の目を疑った。
先程宮野明美のマンションの近くにいた、あの女性だった。彼女はトイレへ入っていく。
時間的、距離的に、彼女が徒歩でここに来たとは到底考えられない。あれから車で移動してきたのか?
まさか…裏に赤井がいるのでは……
彼女をトイレの側で待ち伏せ、声を掛けた。
脅えたような小さな声で返事をした彼女。こちらを振り向いた彼女の顔面もまた強張っていた。せっかく綺麗な顔立ちなのに…勿体無い。
一歩ずつ彼女の方へ歩み寄れば、ふわりと感じた煙草の匂い……彼女が吸ったと考えるのが妥当だろうが、赤井の影がまた脳裏を過ぎる。
彼女は赤井と共に宮野明美の行方を追っている、とか?
それとも単純に、宮野明美の友人か。
宮野明美の遺体は見つかっていないと聞く。友人なら彼女を探し回るのもあり得る話だ。
質問をいくつかしてみたが、短く答えが返ってきただけで会話は続かない。
すると彼女に電話が掛かってきた。
明らかに動揺の色を見せながら電話に出た彼女……スマートフォンから僅かに漏れ聞こえた声から察するに電話の相手は低い声の男……やはり赤井か…?
通話を終えてこの場を後にする彼女を念の為尾行しようと歩き出した所、公園の脇の道路を一台のドイツ車が通行しているのが見え、思わず足を止める。
運転していたのはニット帽にサングラスの男…髪は短かったものの、赤井によく似ていたように思う。
やはりあの女性は赤井の連れなのか。だとしたら……追い掛けてもおそらく無駄に終わるか。
車も近くに無いことだし、尾行は断念、一人公園のベンチに腰掛けた。先程の女性の顔を忘れることがないよう、脳裏に焼き付けた。