第4章 思い出に浸る
「バーボンは宮野志保を探していたんだろうな…」
「多分…でも…もしかしたらバーボンは、志保ちゃんを捕まえるんじゃなくて保護しに来てたのかもしれません」
「保護?警察としてってことか」
「それもあるかもですけど…宮野姉妹のお母さんって分かります?」
「…ヘルエンジェルか」
「そう、その人ってバーボンの初恋の相手らしくて!だから彼もあの姉妹のことは大事にしたいと思ってたり…するかも?って希望的観測です…」
「っ…彼とヘルエンジェルでは歳が違いすぎるんじゃないか?」
赤井さんが小さく吹き出した。珍しいこともあるものだ。
「よくあるんじゃないですか?初恋の人は幼稚園とか小学校の先生だったって話、聞きません?」
「俺は初耳だな」
「えー?そう?」
「ああ、聞いたことがない」
ずっと緊張して身体中が強張っていたけど…いつの間にやら完全に解れていた。未だ可笑しそうに笑っている赤井さんを見てると、私も笑い出してしまいそうになる。
「でも赤井さん…ジャケットひとつでだいぶ雰囲気変わるんですね…違う人みたい…」
「そうか?」
「はい!今は“イケてる青年実業家”って感じです」
「……イマイチ褒められているとは思えんのだが」
「だから…カッコイイってことです…」
「そうか」
彼のサングラスの下の目は笑っているのか判別は付かないけど、声色と口元は満足そう。
赤井さんて掴めない人だ…ってずっと思ってたけど、彼のご機嫌の取り方は、至極簡単であることに気付いた。そして、彼の機嫌が良いと、私も気分がいい。
「またバーボンに出くわしても面倒だからな…今日の所は張り込みは諦めるか…」
「赤井さんがそう思うなら、それでいいと思います…」
張り込みは中止、お昼ごはんを食べに行くことになった。
念には念を入れて、コンビニに寄り、トイレで私もワンピースに着替えた。(これが現在の自前の服の中で一番小綺麗な服だ)