第4章 思い出に浸る
私が赤井さんの連れだとは、バレてないだろうか。赤井さんの乗る車はこの位置からは見えないことを改めて確認し、思い切って声を出す。
「…私、ですか?」
ゆっくりと声の方へ身体を向ければ、やっぱり声の主は安室さんだ…さっきは明美さんのマンションの近くに居たんだから…やっぱり彼は志保ちゃんを探してるんだろうか…
「貴女しかいないでしょう。この辺りの方だったんですか?」
「いえ?違います」
口元に笑みを浮かべる安室さんが少しずつ近寄ってくる。一体自分はどんな顔をしたらいいのか分からず、真顔を努めて後ろへ一歩後退った。
「そうですか…ところで先程○○町のコンビニにいませんでした?」(それは明美さんの家があった所の住所だ)
「っ!いました…」
「ですよね…僕もいたんですよ。すごい偶然だ。ちなみにココにはどんなご用事で?」
「…ちょっと、探し物をしてて…」
「すごいな、僕もそうです。もしかして同じ人を探してたり…しませんよね?」
「さあ…?」
実物の安室さんがめちゃくちゃイケメンなのは間違いないのだが、残念なことに今は彼をカッコイイと思うよりも、なぜか恐怖心の方が強い。
彼、顔は笑ってるけど目が笑ってないというか…全て見透かされてるような冷たい視線に背筋が寒くなる。
……っていうか、赤井さんをここから離さなくてはいけないのでは…?この人に見つかったら大変なことになりそう……
タイミングも悪くカバンの中のスマホに着信が入る…赤井さんだ。画面を目の前の彼には見られないよう注意を払いながら電話に出る……どうしよう。
「もしもし!」
「女のトイレは長いと言うが少々長すぎやしないか」
「すみません!色々あって…もう少ししたら伺うんで家で待っててください!」
「ん?……了解した……落ち着いたら連絡をくれ」
「はい。失礼します」
赤井さんをこの場から遠ざける為に咄嗟に嘘を吐いたけど…果たして真意は伝わっただろうか。
安室さんを見やり、苦笑いの表情を作る。
「すみません、私用事があるので、これで…」
「それは残念…でも貴女とはまたどこかでお会いできそうですね」
「ですかね…」
会釈し安室さんに背を向け、赤井さんの車がある方とは違う方向へ歩き、公園を出る。
いつの間にか背中に変な汗をかいていたようで、服が冷たい。