第4章 思い出に浸る
車は明美さんのマンションのあったエリアからはどんどん離れていく。
「…バーボンの尾行は…しないんですか?」
「ああ。するにしたってもうかなり距離が空いている……だがバーボンは潜入捜査官なんだろう?そもそも彼を尾けるメリットは少ないだろう」
「メリット…そっか……でも組織の誰かと合流するかもしれませんよ?」
「彼はスコッチの件以来、殆ど単独行動しかしていない」
「そっか…でもベルモットとはよく一緒に動いてません?」
「…そうなのか?」
「前は違ったんですかね?」
「俺は知らんな…」
「単独行動もだけど、二人でもちょくちょく動いてましたね。ジン達にも知らせずに勝手なことしてジンがイライラするっていうくだりも…」
「ほう…」
「なんかバーボンはベルモットの秘密を握ってるそうですよ。あ…そうだ。これ、どうぞ」
買ってきたコーヒーとタバコをレジ袋から出し、赤井さんに見せる。
(ちなみにコーヒーもいつも赤井さんが飲んでる銘柄だ)
「これは…俺の好物を覚えていたのか?さんにも観察眼はあるようだな。それとも俺の嗜好品の銘柄まで物語には書いてあったのか?」
「書かれてないです。でも同じ家にいたら普通に覚えますって」
「いや、人間興味の無い事の記憶は残らんものだ…」
「…なんか私が赤井さんに興味あるみたいじゃないですか……たしかにありますけど」
「あるんじゃないか」
「……潜入捜査もこなすFBIのエーススナイパーの日常ですよ?そりゃあ気になりますよ…」
「…理由はそれだけか?」
赤井さんは何やら満足そうな面持ち、加えて得意気な声色。この人ってきっと“自分に自信があるタイプ”、“褒められて伸びるタイプ”なんだろう。羨ましい性格だ。
「……“カッコイイ赤井さんだから興味があって覚えてたんです”って言ってほしそうですね」
「君は人の思考を読む能力にも長けているようだな」
「…私は赤井さんと出会う遥か前から赤井さんのこと知ってますから」
「そうだったな……では煙草を買ってきてくれたついでに…火を点けてくれないか」
「はい…」
ポケットからタバコの箱とマッチ箱を取り出した赤井さんは、マッチ箱を私に渡してくる。
彼は器用にタバコを一本取り出すと、それを口に咥えた。