第4章 思い出に浸る
FBIの上官、ジェイムズの用意してくれた車にさんを乗せ、まずは宮野明美の借りていたマンションへ向かう。
部屋自体はとっくに引き払われた後だろうが、そこを訪れるかもしれない宮野志保を組織の人間が待ち構えている可能性は充分にある。
伸ばしていた髪はバッサリと切ったし、今日は車も違う、加えてサングラスを掛ければ、組織の人間に姿を見られた所で、すぐに赤井秀一だと気付かれる心配は無いと踏んでいる。
マンションのエントランスが見える位置まで来て、自分がもしここにやって来た人物を狙撃するなら選ぶであろう場所を推察する。
辺りの建物を目で確認するが……狙撃手の気配はない。
付近には怪しい車も見当たらず。
さんに聞いても、特に見覚えはない景色だと言う。
見晴らしの良い場所に車を停め、しばらく往来する人や車を観察することにした。
しかし今朝の朝食は中々に良かった。出来栄えや味のことはさておき(悪い意味では無い)、何故か母さんの作る朝食を彷彿とさせるものだった。
もう久しく母さんとも会ってはいないが、さんによれば元気にしているそうだから良かった。(あの母が身体を悪くしている姿こそ全く想像もつかないが)
たまには連絡してやるか、と随分前に届いていた母さんからのメールを開き暫し眺め…返信の文字を打ち込む。
“どうやら俺も敵に回してはいけない組織を敵に回してしまったようだが、上手くやっている。母さんも真純も元気でな。”
打ち終えて送信しようとしていると、隣からさんの声がした。
「メールですか?」
「ああ…母さんにな」
「そうですか!今は連絡取ってらっしゃるんですね!」
「“今は”とは何だ?この先連絡が取れなくなるのか?」
「あ……絶対に取れないって訳ではないんですが…取り辛い状況になる時が来ると思います…」
“この世界”のあらゆる事を知っているこの女……
極限られた人間しか知り得ない自分の情報まで彼女に知られているのは妙な気分だったが…近頃はもう慣れた。
彼女が自分に向けてくる視線や態度は、かなり好意的だと感じる…しかしどうもいつも見えない一線を引かれているような余所余所しさもあり……
掴めそうで掴めない、彼女は不思議な人間だ。