第3章 パンと卵とコーヒーさえあれば
着いたカレー屋の店内に入れは、本当にココは日本かと疑いたくなる程異国情緒に溢れた所だった。外国人店員達の間に飛び交う謎の言語とたまに聞こえるカタコトの日本語……各テーブルの間は天井から垂れた大きな布で遮られていて…スパイの密会にはもってこい…じゃない、本格的なカレーが期待できそうな店だ。
……実際に食べてみてもすっごく美味しい。
「美味しーい!…この前のお蕎麦も美味しかったですけど、赤井さんってどうやってこういうお店見つけるんですか?」
「俺が探している訳ではない」
「じゃあ誰が?」
「グルメな同僚がいてな…それと…あの組織に潜入していた時によく組んでいた奴の中にも料理に煩い奴がいたな」
もしかして…?と頭に浮かぶ、キャメルとスコッチ(諸伏景光)の顔。ちょっと迷うけど…聞いてみた。
「それってもしかして…キャメルさんとスコッチさん?」
「……よく分かったな。此処を教えてくれたのはスコッチだ」
「やっぱりー!」
驚いたような彼の顔が見れるのは、ちょっと嬉しい。
「知っているなら聞くが、スコッチという人物についてはどのように書かれていた?」
「……日本の公安から組織に潜入してたスパイで…でもそれがバレて……赤井さんに彼を消すよう命令が出たんですよね?」
「ああ…やはり公安で間違いなかったんだな」
「はい。でも赤井さんは逃がしてあげようとしたんでしょ?」
「そうだ…」
「でもたしか……その話をしてた時に赤井さん達の方に向かってくる足音が聞こえて…スコッチは赤井さんの銃を奪って自決……足音の主はバーボンで…赤井さんは立場上スコッチを自分が殺したように振る舞った…んですよね?……それ知った時は私、泣きそうでしたよ…」
「俺があと少し早く動けていたらな…あんな事にはならなかった筈だ…惜しい命を亡くしてしまった……」
「赤井さんは、何も悪くない…」
「まあ終わった事は変えられんからな…彼の死を無駄にはしまいと俺もあれから必死に奮闘したんだ……ヤツらの信用を得る為に性に合わん仕事も山程した……だが結局は俺の身分もバレてしまったな…」
赤井さんが切なそうに目を細めるから、私まで目の奥が熱くなってくる。
彼は私の恋人でも何でもないけど、今無性に彼に触れたいというか、抱き締めたいというか…そういう気持ちで胸が苦しくなった。