第3章 パンと卵とコーヒーさえあれば
「さん…どうした」
「は、は…赤井さんが…裸だから!」
「…別に男の裸を見たことが無い訳でもないだろう?」
「あ、あ、ありますけど…けど…」
「全裸でもないんだからな…これくらい慣れて貰わんと、一緒に住むなら俺が困る」
「や、でも……あっ、そうだ。私、ハサミを貸してほしかったんです…」
「ハサミならあそこだ」
「あそこ、とは?」
「あそこだ、いい加減こちらを向いたらどうだ?」
「うぅ……かっこよすぎてむりです…」
赤井さんが何やら動いている気配がする。そして近付いてきている気がする足音。
「……少しは俺の気持ちも分かったか?」
「…はい?」
「俺だって、酔っ払ったさんに目の前で服を脱がれたんだぞ…」
「それはっ…!忘れてください…」
小さな溜め息がすぐ真後ろから聞こえた…たぶんすごく近くにいる。
「ほら…こいつでいいか?…受け取れ…」
「あ…ありがとう、ごさいます…」
背後からハサミが差し出されて、私は赤井さんの顔も見ずに受け取った。
しばらくしてからゆっくり後ろを振り向けば、もう赤井さんはリビングには居なくて。そのまま呆然と立っているとドライヤーの音が聞こえてきた。
すっごくいいもの見せてもらったとは思うんだけど…あれは心臓に悪い…実物の迫力の凄さよ…
気を取り直してハサミを握り締めて自室に戻り、洋服からタグを外していく。
だけど、服をかけるハンガーすらまだこの部屋には無かった。
部屋を出て洗面所にいるであろう家主の彼に問う。
「赤井さーん!ハンガーって余ってません?」
「少しならある筈だ…クローゼットから持っていけ」
「貸してください!部屋、お邪魔しますねー…」
そして彼の部屋に入る。昨夜私が寝かせてもらってた部屋だ。ドーンと大きなベッドが置いてあるだけで、他にはほぼ何も無い部屋。
クローゼットの扉を開ければ、中に掛かっているのは黒や暗い色の服ばかり。ちなみにさっき見てしまったパンツも黒だった…
たしかに彼が明るい色の服を着てるイメージって無いけど…これじゃ黒ずくめの組織の人間かも、ってコナンくんに疑われてもおかしくないぞ。
何も掛かっていないハンガーを拝借し、扉を締めて自室に戻った。