第3章 パンと卵とコーヒーさえあれば
合鍵を借り、赤井さん宅を出て、滞在先だったホテルへ歩いて向かう。
歩けば歩く程、強くなってくる鼻につく妙な臭い…
そしてホテルに到着はしたものの、建物は見るも無残な姿……付近には立入禁止の規制線が張られていて、警察官が立っている。
「すみません、私ここに宿泊してたんですけど、ホテルの人とはどうしたら連絡取れますか?あと、部屋には…入れない…ですよね?」
予想はしてたけど、中には入れないと言われ肩を落とし。
警察官が指差した張り紙に書いてあるホテルの連絡先に電話を掛けながら、次は工藤邸方向を目指す。
お詫びと、部屋に置いてあった物の弁償、それから私の残りの宿泊代金の返金について機械的に説明がされる。
でも、銀行口座がない私は、お金を振り込んでもらうことが出来ない。現金での返金が希望なら本社へ、と言われたがその本社の住所は全く聞いたことのない地名で…
また連絡し直します、と電話をし終える頃には工藤邸、阿笠邸の近くまで来ていた。
ハカセから一旦工藤邸の鍵を受け取り、工藤邸で現金を鞄に入れ、再び阿笠邸に戻ってきた。
「いやー、くんのおかげであれから発明が捗ってのぉー!新一の秘密道具もずいぶん充実したんじゃ!」
これからの参考にまた話を聞かせて欲しい!と家の中に招かれ、ティータイムが始まった。
探偵団バッジや超小型の発信機や盗聴器にスピーカー、スケボーにエンジンを搭載したり……秘密道具がどんどん進歩してるようで嬉しい。
絶対使わなさそうなアイテムの話もいくつか出てきたけど。
色々お喋りをしながら……結局、新一くんの両親、工藤夫妻には彼が小さくなってしまったことを話したんだと聞いた。
それから大阪の高校生探偵にも正体がバレてしまったと。
コナンくんが私にはひとつもそんな話をしてくれなかったことに少々ヤキモチのようなものを覚えつつ…
まあ最近ゆっくり彼と喋る機会もなかったし、それはそれで筋書き通り物語が進んでるってことだから…自分の中で良しとして。
でもそうなると…次に気になるのは、あの女の子の登場。
「ハカセ、独り暮らしって寂しくありません?」
「まぁ慣れてはおるがのぉ…」
「しっかり者の女の子と一緒に暮らせたら、いいかもしれませんね」
ポカンとした表情の彼に、今月分のスマホ代を渡して私は阿笠邸を去った。