第2章 心機一転、二転、三転!?
それからまたしばらく経った日の夕方。
ホテルの部屋の窓際に座って、外の夕焼けをぼんやり見ていた。
一人っきりで過ごすのにもすっかり慣れた筈なのに、この景色のせいか、なんだか切ないような寂しいような気持ちになってくる。
こっちの世界は知ってるようで知らないことばかりだ。工藤邸に始まり、毛利探偵事務所やポアロが実際にあるってことはすごく嬉しいんだけど、同じ日本、しかも東京なのに自分の住んでた家もここにはないし、勤めていた会社も、通っていた母校も無い。
例の身分証がまだ手に入らないなら、そろそろ次の滞在先のホテルを予約しなければいけない……でももし早々に手に入るのなら、マンション探しをしたい……
早く身分証を寄越せだなんて催促はしないけど…進捗状況を聞くくらいならいいだろうか…と、初めて自分から赤井さんに電話を掛けてみる。
ちなみにちょっと緊張してる。
それに…赤井さんの都合が合えば一緒に夜ご飯食べに行きたいな…って思いも少しあったりする。
ワンコール、ツーコール…………
だけど彼は出なかった。忙しいのかもしれない。彼との食事は諦めて、要件をメールで送った。
“です。例の件ですが、進んでいますか?一度連絡ください。”
気を取り直し、さっと身なりを確認して部屋を出る。もうすぐ夜だ。
元々の私って、お酒が好きで、量も割と飲める方だった。でもこっちの世界に来てからというもの、不思議と飲みたいと思うことはなくて……今まで一滴もアルコールは口にしていなかった。(ガンが治った気がするのと同じように、体質が変わったのかもしれない…?)
でも、今日は久しぶりに飲んでみようと思ってる。しかも外で。既に目星を付けているお店もある。
何故かって……やっぱり友達が欲しくなったからだ。ほぼ毎日一人で過ごしてきてしばらく、今になってすごく人が恋しい。
ファミレスやファストフード店や喫茶店、定食屋で食事するんじゃなくて、居酒屋のカウンターで一人で飲んでたら、店員なりお客さんなり、どこかの誰かと仲良くなれるんじゃないかな…っていう魂胆だ。